今年度もミューオンの異常磁気能率 (muon g-2) や関連する物理量について研究した。 muon g-2 は素粒子の標準模型を超える新物理を探るのに有用な物理量である。この物理量から新物理の存在を探るには muon g-2 の実験値を標準模型の予言値と比較する必要があるが、後者を精密に計算する上で最も鍵になるのがハドロンからの寄与である。ハドロンからの寄与のうち不定性の最も大きなものは hadronic leading-order 項と呼ばれる。我々は以前(2011年)、この項を精密に評価した結果を論文として発表した。この論文によると、muon g-2 の実験値と理論値との間には3標準偏差以上のずれがある。これは標準模型を超える新物理の存在を示唆しており、非常に高い引用数を得た。 一方で、この論文でインプットとして用いた実験データは現在ではすでに古く、最新のデータを用いて解析をやり直す必要がある。このような論文を我々は昨年度の2月に完成し、プレプリントサーバ arXiv.org に投稿した。我々はこの論文 (arXiv:1802.02995) を今年度の4月に微修正した後に専門誌 Physical Review D に投稿した。この論文は今年度中に同誌に掲載された。 また、関連する物理量の例として QCD 結合定数 \alpha_s がある。上の論文では e^+ e^- --> hadrons のデータを解析に用いたが、このデータに重み関数を掛けてエネルギーについて積分したものは有限エネルギー和則によって QCD の摂動論と関係づけることができる。我々は 2GeV 以下のデータと有限エネルギー和則とを用いてデータと QCD の予言とを比べることによりタウレプトン質量での QCD 結合定数の値を決定した。この結果は Physical Review D に論文として掲載された。
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