研究課題/領域番号 |
16K05324
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉本 茂樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (80362408)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホログラフィックQCD / Dブレイン / 超弦理論 / 超重力理論 |
研究実績の概要 |
まず昨年度に行ったホログラフィックQCDにおけるメソンの有効作用に含まれるチャーン・サイモンズ項に関する研究を完成させ、Physical Review 誌に出版した。ホログラフィックQCDのメソンの有効理論は5次元のゲージ理論で記述され、特にチャーン・サイモンズ項と呼ばれる項が重要な役割を果たすが、特にフレーバー数が3以上の場合にバリオンを含む系ではこの項がうまく機能しないことが問題として指摘されていた。この問題に対して、境界での寄与も含めてゲージの取り方に依らない well-defined な形のチャーン・サイモンズ項を提案し、それを用いることによって上記の問題が解決されることを示した。この研究は Physical Review 誌の Editor's suggestions に選ばれた。 本研究課題でもともと行う予定であった内容ではないが、結合定数などの理論のパラメータが時空の座標に依存するような場の理論に関する研究も行った。4次元の N=4 超対称ヤン・ミルズ理論に次元3以下のオペレータを加える変形を加えた理論において、結合定数を含む理論のあらゆるパラメータが時空の座標に依存する状況で超対称性の一部が保たれるための条件を求め、その条件を満たす広いクラスの解を見つけた。また、そのような理論を超重力理論によってじつげんする方法も議論した。これらの研究は論文としてまとめられ、それぞれ PTEP 誌と JHEP 誌に掲載された。 その他にも、ホログラフィック双対を持つ場の理論における一般化された大域的対称性に関する研究と、ホログラフィックQCDを用いて温度とバリオン数密度を入れたときの相構造に関する研究なども行っている。これらは具体的な成果が出つつある段階であり、来年度に完成することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
私の研究所に所属していた共同研究者が海外の研究機関に転出したことや、私が指導している院生の博士号取得のために本研究課題の当初の研究内容とは異なる研究を優先しなければならなかったことなどによって、予定していた研究の遂行がやや遅れている。ただ、その代わりに新たな研究テーマを開拓することができたので、必ずしも悪い影響ばかりではない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上で触れたホログラフィック双対を持つ場の理論の一般化された大域的対称性に関する研究と、ホログラフィックQCDにおいてバリオン数密度を入れたときの相構造に関する研究を行う。大域的対称性に関する研究については、まずホログラフィック繰り込みの方法を n-form ゲージ場を含めた場合に拡張する解析を行う。そこで得られた境界項を含めた作用に存在する対称性(n-form に一般化されたものを含む)を読み取ることで、対応する場の理論の対称性が同定できると期待している。ホログラフィックQCDにおける相構造に関する研究はバリオンを5次元時空における点粒子として扱い、それが近似的に電荷をもったガスのように取り扱える場合をトーマス・フェルミ理論に類する方法によって解析する。 これが一段落したら、フレーバー数が3以上の場合のバリオンの系の静的性質や核力の研究を過去に行ったフレーバー数が2の場合の解析を拡張して行いたい。平成30年度が本研究課題の最終年度であるが、その他にも研究したいことはいろいろあるので、できる限り多くの研究を行いたい。例えば、ホログラフィックQCDに基づき、バリオン-メソン系の有効作用を求め、バリオン-メソンの散乱振幅を計算する方法を開発したい。また、有限温度の場の理論のホログラフィックな記述を場の理論のベータ関数などの情報から構成する方法の研究も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度にノートパソコンを購入する予定だったが、当面は別の財源で購入したもので代用できるため、購入を見送った。また、次年度に長期滞在型国際研究会を私が主催することになったため、この機会に私の共同研究者や関連する研究を行っている研究者を呼び寄せて研究課題に関する議論を行うための旅費等に使用したいと考えている。
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