研究実績の概要 |
2019年度はホログラフィックQCDにおいて、バリオンの励起状態を記述する方法を開発する研究を行った。以前に我々が提案したQCDのホログラフィックな記述において、バリオンは超弦理論に存在するDブレインと呼ばれる物体が内部空間に巻き付いた状態として得られる。この記述において、バリオンを表すDブレイン上に端点を持つ弦が3本(ゲージ群がSU(Nc) のQCDの場合はNc本)なければならないことが知られている。これまでの研究では、この3本の弦の振動モードが基底状態である場合の解析しかなされていなかったが、これが励起状態にある場合へ拡張し、バリオンの励起状態を構成する方法を与えた。特にアップクォークとダウンクォークで構成されるバリオンに注目し、この方法を適用すると、実験で見つかっているアイソスピンが 1/2 や 3/2 で、スピンが 1/2 から 11/2 までの間の多くのバリオンに対応しうる状態が得られることが分かった。例えば、アイソスピンが 1/2 でスピンが 3/2, 5/2, ..., 11/2 のバリオンの共鳴状態である N(1520), N(1680), N(2190), N(2220), N(2600) の系列は、上記の3本の弦のうちの2本は基底状態で1本が励起状態にあるような状態として理解することができる。この解釈で、実験で測られているこれらの状態のパリティを正しく再現し、質量の定性的な振る舞いも説明できる。これら以外の状態についても、我々の解析によって存在が示唆される状態と実験で見つかっている状態の間の対応を詳しく議論した。
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