研究課題/領域番号 |
16K05329
|
研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
関野 恭弘 拓殖大学, 工学部, 准教授 (50443594)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 超弦理論 / 初期宇宙 / ダークエネルギー / ブラックホール / Dブレーン / 行列模型 |
研究実績の概要 |
超弦理論が初期宇宙やブラックホール近傍で果たす役割の解明を目指し、(1)宇宙論、(2)ブラックホールに関して、それぞれ以下の研究を行った。 (1)超弦理論によると、我々の宇宙は高エネルギー(大きな膨張率)のドジッター空間の中でバブルの生成によって出来たと考えられている。そのような宇宙の起源が現在の宇宙に与える帰結の1つを明らかにすることを目指して、本研究では、バブルの生成前の宇宙で生じた量子揺らぎのエネルギーが現在まで残存して「ダークエネルギー」(宇宙の加速膨張を支える正体不明のエネルギー)となる可能性を指摘した。このメカニズムで実現されたダークエネルギーの「状態方程式パラメータw(圧力とエネルギー密度の比)」は、現在では-1(加速膨張に最大限寄与する値)に近いが、過去に遡ると-1/3(加速にも減速にも寄与しない値)に近づくという特徴がある。それが、近い将来の観測により検証可能であることを指摘した。[青木一(佐賀大学)、磯暁(高エネルギー加速器研究機構)、Da-Shin Lee、Chen-Pin Yeh(台湾・国立東華大学)各氏との共著論文をPhysical Review誌に発表。] (2)ブラックホールが量子的な輻射を放出して蒸発する際、ブラックホールを構成していた物質の情報は保存されることが超弦理論によって示唆されているが、どのような自由度が情報を担っているかは明らかでない。その解明を目指して2015年のEisert氏らとの共同研究で、行列模型(ブラックホールを記述するDブレーン多体系の力学を簡単化したモデル)のスペクトルを求め、揺らぎの平衡化に関するいくつかの性質を明らかにしたが、その結果をもとに、(2-a)部分系のエンタングルメントエントロピーの導出とその時間発展の解析、(2-b)より複雑な(高次元、高ランクの)行列模型への拡張、という2つの側面から研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)宇宙論、(2)ブラックホール、それぞれのテーマについての進捗状況は以下の通り。 (1)宇宙論については、バブルの生成によってできた宇宙におけるダークエネルギーという最大の課題に関する論文を完成することができた。この研究の進展に伴い、当初想定していなかった、観測によるダークエネルギーの状態方程式パラメータの検証の可能性という興味深いテーマが浮上し、次年度以降の重要な研究課題となった。このことから、(1)に関しては当初の計画を上回る進展があったと考えている。 (2)ブラックホールの研究に関しては、今年度、宇宙論の論文の完成を優先したため、まだ完成には至っていないが、「概要」欄に記した2つの側面からの研究を予定通り進めている。 以上の理由により、全体として、研究は順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)宇宙論に関しては、バブルの生成前の量子揺らぎとしてのダークエネルギーの導出、というテーマを観測と理論の両面からより深く研究する。まず、ダークエネルギーの状態方程式パラメータwを観測により決定する方法を提示する。2020年代前半に予定されている電波望遠鏡 Square Kilometre Array[SKA]等による銀河分布の観測が最も有力だと考えられるので、Fisher行列の解析によりこの観測によりwがどの程度決定されうるかを明らかにする。また、宇宙背景輻射等の既存の観測と組み合わせてさらに制限を強めることを試みる。理論面では以下の2つの課題を追究する。(a)このメカニズムでは、現在の宇宙のハッブルパラメータ程度の非常に小さい質量を持った場が存在し、バブルの生成前の量子揺らぎにより、その場が有限な真空期待値を持つことを仮定している。そのような場の候補は、超弦理論に多数存在する「アクシオン」である。今後、超弦理論に基づく具体的なモデルを構成し、他の場との相互作用の特徴等を詳しく調べる。(b)我々のメカニズムによると、宇宙膨張が進んでハッブルパラメータが場の質量以下になると、場の真空期待値が減少しはじめ、最終的に暗黒エネルギーはゼロになる。そこでは超対称性が存在し、フェルミオンとボソンの量子エネルギーが相殺していると考えられる。現在の宇宙では超対称性は破れているが、場の期待値の減少に伴い超対称性が回復する機構を明らかにしたい。 (2)ブラックホールに関しては当初の計画通り、Dブレーン多体系を表す行列模型に関して、部分系のエントロピー、より複雑な模型への拡張という2つの側面から研究を行う。エントロピーの時間発展の解析では、近年注目されている手法であるOut-of-time-ordered-correlatorを用いた結果との対応も明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の旅費の使用額が当初予定より少なかったため。次年度使用額は、旅費として使用する予定。
|