超弦理論が初期宇宙やブラックホール近傍で果たす役割の解明を目指して研究を行った。 超弦理論によると、我々の宇宙は高エネルギー(大きな膨張率)のドジッター空間の中でバブルの生成によって出来たと考えられている。宇宙の起源が現在の宇宙の観測量に与える影響があるのではないかと考え、前年度の論文で、バブルの生成前の宇宙で生じた量子揺らぎのエネルギーが現在まで残存してダークエネルギー(現在の宇宙の加速膨張を支えるエネルギー)となる可能性を指摘したが、本年度は、その観測的検証の可能性を詳しく検討した。このメカニズムで実現されたダークエネルギーの状態方程式パラメータ(圧力とエネルギー密度の比)wは、現在では-1(加速膨張に最大限寄与する値)に近いが、過去に遡ると-1/3(加速にも減速にも寄与しない値)に近づくという特徴がある。2020年代前半に観測開始される予定の電波望遠鏡Square Kilometre Array、およびEuclid衛星による、赤方偏移z=2程度に達する銀河サーベイについて、Fisher行列に基づく誤差評価を行い、これらによる観測結果から我々が提唱したダークエネルギーの振る舞いが判別できる可能性を指摘した。 超弦理論によると、ブラックホールは理論のソリトン的物体「Dブレーン」の多体系として表される。2015年のEisert氏らとの共同研究で、行列模型(Dブレーン理論を簡単化した模型)のスペクトルを求め、揺らぎの平衡化に関するいくつかの性質を明らかにしたが、その模型をより実際に近いもの(高次元時空、高ランクのゲージ群)に拡張し、2008年にSusskind氏と共同で指摘したブラックホール地平面における量子情報の早い拡散(fast scrambling)の行列模型からの導出を目指して研究を進めた。
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