漸近的安全性による量子重力理論の定式化の物理的応用として昨年度、電荷を持つReissner-Nordstromブラックホールに適用して、その中心にある特異点が解消される可能性を指摘した。今年度はこれを回転するカーブラックホールで考えたら、非自明な無矛盾性条件が必要であることが分かり、その解として、ブラックホールのエントロピーが、ホライズン面積の関数として決まることを発見した。それにより、量子論的なエントロピーの一般的な表式を世界で初めて与えることが出来た。さらにこの結果をシュワルツシルトブラックホールに使って、ブラックホールの温度や質量についての相構造を解析して、ブラックホールが熱放射で小さくなっていくとき、ブラックホール残留物が生じる場合があり、これはダークマターを説明する可能性があることを指摘した。また、2次重力理論の1ループの発散の計算についてレビューした。さらに、これまで漸近的安全性のアプローチで見逃されていた波動関数くりこみの効果を取り入れる必要があることを指摘し、それを考慮すると2次曲率の相互作用を含めた理論で、高エネルギーでニュートン定数が有限の値にとどまり、低エネルギーでは小さくなるという振る舞いを説明できることを示した。 昨年度までは、漸近的安全性の枠組みで、理論がどこまで制限されるかを調べ、それが2つある独立な曲率の2次項のうち1つしか必要で無いことを発見した。一方で、今年度は摂動論とつながるケースでは2つとも必要であることを示した。これについては現在論文を準備中である。これらは重力の量子論を構築する上で重要な成果と考えている。また関連するユニモジュラー重力の量子論や、一般化された重力理論f(R)重力の量子論的取り扱いなどについて調べて、新しい知見を与えることが出来た。 以上の成果は数々の研究会で発表しており、今後さらに発展が期待される。
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