研究実績の概要 |
高階のキリングテンソル場は時空の隠れた対称性を記述するテンソル場である.特に1階のキリングテンソル場は,キリングベクトル場であり,時空計量の対称性を表す.また,近年の研究から時空上の場の方程式が変数分離することの背景には,2階のキリングテンソル場が存在することが明らかになった. 本研究では「延長」とよばれる操作によってキリングテンソル場をベクトル束上の平行な切断として幾何学的に表現できることを示した.キリング方程式の未知変数とその微分からジェット束とよばれるベクトル束を構成する.ベクトル束のファイバーは一般線形群の表現空間であり,ヤング図形を使って既約な表現に分解される.さらにベクトル束には レビ・チビタ接続から自然な線形接続が誘導され(キリング接続),この接続に関して平行な切断がキリングテンソル場と1対1に対応する.平行切断の次元はベクトル束のランクが上限を与える.定曲率空間上のキリングテンソル場の場合,キリング接続の曲率がゼロとなり,その切断の次元は上限値と一致する.一般の時空ではキリング曲率は消えない.このことが平行切断の存在に非自明な可積分条件を与える.この可積分条件は,階数1,2のキリングテンソル場に対してはすでに知られている結果である.本研究の成果は任意の階数のキリングテンソル場に対して可積分条件を陽に書き下したことである.さらに,この可積分条件に長方形のヤング図で記述される新しい対称性を発見した.この対称性は階数1,2,3のときまでは確認できたが,4以上の場合,現時点では予想にすぎない. この対称性の存在証明は次年度の課題として残された.
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