研究実績の概要 |
高階のキリングテンソルは時空の隠れた対称性を記述するテンソルである.特に1階のキリングテンソルは,キリングベクトルであり,時空計量の対称性を表す.また,スタッケル(1893),レビ・チビタ(1904), ベネンチ(1980)らの研究により時空上の測地線を記述するハミルトン・ヤコビ方程式の変数分離性の背景には,2階のキリングテンソルが存在することが明らかになった.しかしながら階数3以上のキリングテンソルに対する理解は階数1,2の場合に比べかなり乏しい. 本研究では一般の階数のキリングテンソルを扱うことが可能な新しい幾何学的な手法を開発した.そのキーとなるものが「延長」とよばれる操作であり,キリングテンソルはベクトル束上の平行な切断として定式化される.我々の手法の第一ステップはキリング方程式の未知変数とその微分からジェット束とよばれるベクトル束を構成することである.ベクトル束のファイバーは一般線形群の表現空間であり,ヤング図形を使って既約な表現に分解される.さらにベクトル束にはレビ・チビタ接続とリーマン曲率から自然な線形接続が誘導され(キリング接続),この接続に関して平行な切断がキリングテンソル場と1対1に対応する.平行切断の次元はベクトル束のランクが上限を与える.定曲率空間上のキリングテンソル場の場合,キリング接続の曲率がゼロとなり,その切断の次元は上限値と一致する.一般の時空ではキリング曲率は消えない.このことが平行切断の障害となり非自明な可積分条件を与える.この可積分条件は,階数1,2のキリングテンソル場に対してはすでに知られている結果である.本研究の成果は任意の階数のキリングテンソル場に対して,ヤング図形を使って可積分条件を陽に書き下したことである.
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