研究課題/領域番号 |
16K05336
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
北澤 良久 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (10195258)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダークエネルギーの時間依存性 / 非平衡系における対称性の破れ / 赤外紫外混合効果 / 赤外量子効果 / 量子重力理論の微視的理解 / 結合定数の時間変化の相対速度 |
研究実績の概要 |
ダークエネルギーの時間依存性を、非平衡系における対称性の破れの観点から研究する。加速膨張時空で、ソフトな重力子のプロパゲーターは、時間依存性を示す。宇宙項には4次の紫外発散が存在し、赤外紫外混合効果が存在すれば、ダークエネルギーの時間依存性は、今後の宇宙観測の進展による精密測定で観測可能なオーダーになりうる。この量子効果は、微視的理論の詳細に依存せず普遍的に存在すると予測されるが、その定量的な性質は微視的理論の詳細に依存する。本研究においては、以上の議論を精密化し、ダークエネルギーの時間依存性を定量的に予言する理論構築を目指す。ダークエネルギーの時間依存性を観測することによって、素粒子と宇宙論の標準模型を包含する理論に対する重要な情報を得る処方を明らかにする。ダークエネルギーの時間依存性を定量的に記述するためには、明らかにするべき理論的課題も存在する。その一つは、赤外量子効果のゲージ依存性の問題である。結合定数の時間依存性は、重力子のゲージパラメーターに依存するので、この不定性を物理的に理解する必要がある。このゲージ依存性は、結合定数の時間変化の相対速度において相殺する事を明らかにした。同時にホライゾンより短距離において、ローレンツ不変性を保つために場の再定義が必要である事を指摘した。 紫外カットオフ依存性の問題も重要である。期待される量子効果の大きさは、(HM)^2 であり、紫外カットオフM の2乗に比例する。この量は紫外カットオフを2倍すれば4倍になる様に、紫外カットオフに敏感である。この問題を解決するためには、量子重力理論の微視的理解が必要である。弦理論においては、弦の張力、コンパクト化半径、結合定数に依存する。即ちダークエネルギーの時間依存性を観測することによって、量子重力に対する重要な情報を得ることが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ダークエネルギーの時間依存性を理論的に理解するために、非平衡系における赤外紫外混合効果に着目する。紫外発散が赤外カットオフに依存する現象の統一的理解を深めることによって、この効果は、理論の微視的構造に拘らず存在する普遍的な現象である事を示す。赤外量子効果は、微視的理論の結合定数に時間依存性をもたらすが、この効果が局所的なローレンツ不変性と整合する事をde Sitter 時空の有効作用の研究で明らかにした。紫外発散は、局所的なローレンツ不変性を保持するので、赤外紫外混合効果の存在を支持する。一方この効果を定量的に理解するためには、理論の微視的構造の理解が不可欠である。紫外カットオフは、弦理論においては、弦の張力、コンパクト化半径、結合定数に依存する。ダークエネルギーの時間依存性を観測することによって、素粒子と宇宙論の標準模型を包含する微視的理論に関する重要な情報を得ることができることを明らかにする。本研究の目的は、以上の議論を精密化し、暗黒エネルギーの時間依存性を定量的に予言する理論構築を目指す事である。本研究は、以下の3つの量子効果の存在に基づくものである。 1. de Sitter 時空の対称性を破り、結合定数に時間依存性を与える赤外量子効果の存在 2. 宇宙項に4次の紫外発散が存在 3. 赤外紫外混合効果の存在 量子効果1.は、ダークエネルギーに時間依存性を付与し、理論の結合定数が時間とともに変化するための必要条件である。量子効果2.は、場の理論において普遍的に存在すると想定される。量子効果3.は、ダークエネルギーの時間変化が、観測可能であるために必要な効果であり、非平衡場の理論において存在する可能性がある。本研究の特色は、非平衡場の理論において、赤外効果と紫外効果が混合する可能性を検証し、現実的な模型における暗黒エネルギーの時間依存性を明らかにする事である。
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今後の研究の推進方策 |
29年度以降は、これらの研究成果に基づき、ダークエネルギーの時間依存性を定量的に記述する理論を構築して、現実的な模型における暗黒エネルギーの時間依存性を明らかにする。ヒッグズ粒子の質量が125GeV なので、標準模型が、プランクスケール近傍まで成立する可能性がある。標準模型は、繰り込み可能な理論で、ゲージ相互作用、湯川相互作用、スカラー4点相互作用を含む。これらの相互作用は、de Sitter 時空の重力子のプロパゲーターの時間依存性により、時間依存性を獲得する。これらの相互作用は、2ループレベルにおいて、紫外4次発散を生ずる。赤外紫外混合効果を考慮すると、これらは各々宇宙項の時間変化に寄与する。これらの研究成果を総合することによって、標準模型がプランクスケール近傍まで成立する場合に、ダークエネルギーの時間依存性を定量的に記述することが可能になる。ニュートリノ質量、ダークマター、4点スカラー場相互作用の不安定性問題、インフレーション等、標準模型が、プランクスケール近傍で、変更される可能性を示唆する問題も多い。それらの場合には、右巻きニュートリノ、大統一理論、超対称性、インフラトン等、微視的模型が変更される。この場合には、微視的理論に応じて、異なるダークエネルギーの時間依存性が予言されることになる。インフレーション理論においては、赤外量子効果によって、インフラトンポテンシャルが時間変化する効果を明らかにしたが、この効果が宇宙背景輻射の観測で検証される可能性を指摘した。以上述べた様に、ダークエネルギーの時間依存性を観測する事によって、プランクスケールの微視的理論が理解できる可能性がある。この事実は、宇宙項が、宇宙スケールからプランクスケールまで、全てのエネルギースケールの物理に関与することから、宇宙項問題の整合的な解決の帰結として理解される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年5月27日から6月2日に中国で開催された、University of Science and Technology of China(USTC),Hefei China, 1st East Asian Joint Workshop on Fields and Strings、及び2016年12月6日から12月9日に台湾で開催された、National Tsing-Hua University, Hsinchu 30013, TaiwanNCTS Annual Theory Meeting国際研究会へ参加するための旅費と滞在費を本か研費から支出する事を予定していたが、中国および台湾の滞在費および台湾への旅費が先方負担となったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度11月に高エネルギー加速器研究機構において国際会議2nd East Asian Joint Workshop on Fields and Strings開催を予定している。本国際会議においては、ダークエネルギーの時間依存性と微視的理論の研究に密接に関連した場の理論及び弦理論に関して、中国、韓国、台湾及び日本の研究者の研究成果発表及び参加者間の議論が行われる。招待講演者32名を予定しており、本国際会議開催費用として、これらの参加者への滞在費援助が必要であり、その開催費用の一部に充当する。
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