研究課題/領域番号 |
16K05338
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仁尾 真紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 上級研究員 (80283927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 異常磁気能率 / 量子電磁気学 / 電子 / 微細構造定数 |
研究実績の概要 |
本研究は電子やミュー粒子の磁気能率への量子電磁気学的な効果についての理論計算を行うものである。近年、摂動の8次までのすべての項で解析的な計算によって値が得られ、従来の数値計算結果と良く一致した。摂動8次までの寄与は確定したと言える。一方、摂動10次においては私たちの数値計算結果が唯一存在するのみである。一部の比較的簡単なものにおいては、解析的なアプローチを用いた計算がなされており、数値計算結果とよく一致している。ほかの計算の困難なものについて、さまざまな検証を行い、10次の寄与の確定を行うことが、本研究の中心課題である。 2019年になって、摂動10次の項の計算で、もっとも難しく困難である光子5個のみによる補正項SetVに対して、Volkovが私たちとは独立な方法を用いた数値計算結果を発表した。結果は私たちの結果と1桁目は一致するものの、3標準偏差以上のずれを示している。実験値との比較という点では、両者の計算のずれは今の所、無視できる大きさではある。しかし、進行中の電子異常磁気能率の新実験や、微細構造定数を決めるセシウム原子波干渉の新実験を視野に入れると、この差は必ず解決されねばならない。 SetV は数千個のファインマン図からなり、Volkovはこれらを、時間反転で同等の寄与を与えるものを除いて、すべて計算した。一方、私たちは、ワード=高橋恒等式を用いることで、これを389個の積分に帰着して計算を実行した。両者の結果を部分毎に関係付けるには、くりこみ方法の差に注目し、あらたに頂点くりこみ定数を数値計算することで、両者の数値を関係付けられる。このくりこみ定数の計算は8次まででよく、比較的、小規模の数値計算で値を得ることができる。実際に、低次の4次と6次で両者の関係付とお互いの数値計算結果の比較検証を行い、8次での検証の準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Volkovによって摂動10次SetVの値が2019年に発表されたことは、予想外のできごとであった。しかし、これを用いて、摂動10次SetV の計算のより信頼性の高い検証が可能になった。このため、研究の目標を自身の計算の多角的検証から、Volkovとの計算との相互検証へと変更した。 2020年度から理研においてスーパーコンピュータ所内利用が課金されることになり、従来のような大量の計算を実行することが不可能となる。しかし、SetVの検証方法として、比較的小規模の数値計算の実行ですむ方法を確立することができ、研究資金の問題を回避できた。
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今後の研究の推進方策 |
Volkovの計算との相互検証は、摂動の4次と6次で完了し、検証方法がうまく働くことを確かめ、さらに高次の計算の検証を行う準備が整った。今後はこれを摂動8次の検証までまずは推し進める。摂動8次であれば、ぎりぎり人間が手でプログラムを書いたり、解析的に分析を行なったりすることが可能である。しかし摂動10次では、Volkovとの差の由来を示すシンボリックな表現を求める計算も、なんらかの自動化が必須である。摂動8次のケースをその自動化のテストケースとして使用する。 来年度より1~2年以内に摂動10次SetV の相互検証を終え、数値の差の原因を明らかにする。電子異常磁気能率測定実験やセシウム原子波干渉実験の次の結果発表にまにあうように、摂動10次の真に正しい値を求める。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子異常磁気能率の測定実験を行なっている米国イリノイ州ノースウエスタン大学のガブリエルス教授のグループを2019年6月に訪問した。当初、旅費は本科研費で支払う予定であったが、飛行機代も含めてすべて先方が支払ってもらえた。 また、11月にドイツより量子電磁気学の理論研究者であるカッシェンボイム氏を招聘した。この招聘はKEKと合同となり、本科研費からは理研滞在中の経費のみを支払うことになった。
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