研究課題/領域番号 |
16K05338
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仁尾 真紀子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 上級研究員 (80283927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子異常磁気能率 / 量子電磁気学 |
研究実績の概要 |
本年度は、電子異常磁気能率(g-2)への量子電磁気学理論(QED)による研究、特に、光子5個のみによる量子補正を記述する摂動10次の SetVについての検証を実施した。 SetVは、6354個のファインマン頂点図から構成され、時間反転対称性を考慮しても3213個の頂点図からの寄与を評価する必要がある。私たちはこれまでの研究によってこれらの頂点図を389個にまとめ、それぞれに対応する389個の積分を数値的に評価することで、SetVの寄与を求めた。これをAHKN計算と呼ぶ。これに対して、2019年に3213個の頂点図を個々に数値計算によって求めた結果がS. Volkovにより発表された。両者の値は1桁目は一致しているものの、4.9標準偏差(σ)の差がある。 ここ数年、電子g-2の測定実験は著しい進歩をみせている。また、電子g-2の理論値と実験値を比較するうえで必須な微細構造定数αの値は、過去3年に原子干渉計を用いた実験により、現在の電子g-2実験値と同精度、0.2ppb以下で決定された。これらの精度向上により、電子g-2において素粒子の標準模型を厳密に検証し新物理を探索することが可能となった。ただしSetVでの二つの計算の4.9σの差は必ず解消されなければならない。 本研究では、AHKN計算とVolkov計算を389個の個々において数値的な対応をつけることに成功した。まず、摂動8次頂点図269個からの繰り込み定数の寄与を数値的に求めた。さらにVolkov計算での3213個の発散構造を調べ、AHKN計算との差を摂動低次の有限量でシンボリックに表現した。これらの有限量に数値を代入し比較することで、389個の個々で両者の計算の整合性を確かめることができる。現在は、389個のうち、200個余で比較検証が完了し、両者の計算はどちらも問題がないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では当初計画を2019年のVolkoVの計算結果の発表を契機に、大きくその実施方法を転換した。それまではAHKN計算を自身で検証する、あるいは、数値計算を推進しさらに高精度を目指すというものであった。しかし、Volkov計算によって、相互比較検証を行うことが可能になった。つまり、計算結果の信頼性を格段に高めることができる。 COVID-19で研究所への通勤が制限されたり、在宅勤務が推奨されるようになり、海外および国内の研究会などに参加できなくなった。しかし、本研究の実施については、何一つ障害はなかった。むしろ国外の研究会等はWeb上で開催されるようになり、議論や研究討論においては、これまで以上にスピード感のある展開となった。 また、本年度より埼玉大学の大学院生1名が本研究に参画し、研究の進展に貢献があった。
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今後の研究の推進方策 |
まだ数十個の比較検証を残しているとはいえ、AHKN計算とVolkov計算において、被積分関数の構成などの解析的なミスはないであろうと、これまでの検証結果から予想している。とすると、計算結果の数値の差4.9σは、純粋に数値計算でのバイアスの存在から来ていることになる。AHKNであれVolkovであれ数値計算自体を再実行することは、膨大な計算資源が必要になることから、現実的ではない。どのような方法で数値計算のバイアスの存在を示すか、あるいは不確かさ評価の過小評価をどように立証するかなどの方向でで研究を進め、4.9σの差の真の原因を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCOVID-19による影響で、国内外での研究集会に全く参加できなかったため。
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