研究課題/領域番号 |
16K05340
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
根村 英克 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (80391738)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 格子QCD / 少数多体問題 / ストレンジネス / 理論核物理 / 計算物理 |
研究実績の概要 |
大体積かつ物理点に近いクォーク質量での格子 QCD 計算を行い、ラムダ核子、およびシグマ核子系のポテンシャルを、中心力、テンソル力を含む偶パリティ軌道について、その結合チャネルまで含めて、計算が進行中であり、当該年度においては、統計数を前年度から 2.7 倍に増加した。クォーククラスター模型が強い斥力を予言しているチャネルについて、定性的に同じ傾向が格子 QCD 計算においても得られており、クォークとグルーオンのダイナミクスを格子 QCD の枠組みで第一原理的に扱い、ほぼクォーク質量が物理点の計算を行うことによって、ストレンジネスを含むバリオン間相互作用における斥力芯の存在およびその起源をその基礎理論に立ち返って理解する上で非常に意義が大きい。さらに、ストレンジネス (S=0) の核子核子からストレンジネス (S=-4) の ΞΞ まで、アイソスピン対称性のもとでの八重項バリオン間相互作用全体を決定するために必要な格子 QCD 計算の効率のよいアルゴリズムについてまとめた論文を発表した。その中では、いわゆる Luscher 法と HAL QCD 法の結果に関する違いを解消するための考察に関連して、時間依存型 HAL QCD 法において必要とされる虚時間方向の距離について、単純な Luscher 法と比べたときの優位性を具体的な数値を示して指摘している。 今後は、格子 QCD 計算から得られたラムダ核子、およびシグマ核子系の、偶パリティ軌道についての中心力、テンソル力ポテンシャルを用いた、ハイパー核の少数多体系の計算を実行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大体積かつ物理点に近いクォーク質量での格子 QCD 計算を行い、ラムダ核子、およびシグマ核子系のポテンシャルを、中心力、テンソル力を含む偶パリティ軌道について、その結合チャネルまで含めて、計算が進行中である。平成 28 年度は、格子 QCD 計算によるデータの統計数を平成 27 年度に報告していたものから 2.7 倍に増加した。これまでに、アイソスピン(I=1/2)、スピン(J=0)のシグマ核子相互作用、およびアイソスピン(I=3/2)、スピン(J=1)のシグマ核子相互作用について、強い斥力が働いている様子が格子 QCD 計算においても得られることが分かった。この傾向はクォーククラスター模型が予言する傾向と定性的に一致しており、クォークとグルーオンのダイナミクスを格子 QCD の枠組みで第一原理的に扱い、ほぼクォーク質量が物理点の計算を行うことによってこの様な結果が得られたことは、ストレンジネスを含むバリオン間相互作用における斥力芯の存在およびその起源をその基礎理論に立ち返って理解する上で非常に意義が大きい。 また、さまざまなバリオン間のチャネルについて、現在進行中の計算を含め、格子QCD計算から相互作用のいろいろな情報を同時に効率よく引き出すためのアルゴリズムについて、論文発表を行った。この論文では、ストレンジネス(S=0)の核子核子からストレンジネス(S=-4)のΞΞまで、アイソスピン対称性のもとでの八重項バリオン間相互作用全体を決定するために必要なチャネルを網羅的にまとめている。いわゆる Luscher 法と HAL QCD 法の結果に関する違いを解消するための考察を進めており、上述の論文では、時間依存型 HAL QCD 法において必要とされる虚時間方向の距離について、単純な Luscher 法と比べたときの優位性を具体的な数値を示して指摘している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ストレンジネスS=-1のハイペロンポテンシャルとして、ラムダ核子、およびシグマ核子系のポテンシャルを、中心力、テンソル力を含む偶パリティ軌道について、その結合チャネルまで含めて、格子 QCD 計算によるデータの統計数をさらに増やしながら解析を進めていく。また、格子QCD計算から得られたラムダ核子、およびシグマ核子系の、偶パリティ軌道についての中心力、テンソル力ポテンシャルを用いた、ハイパー核の少数多体系の計算を実行する。具体的には、重陽子、三重陽子、ヘリウム原子核(4核子系)にラムダ粒子が一つ結合したs-殻ラムダハイパー核(粒子数A=3-5)についての確率論的変分法による計算を行う。この計算を実行するためには核力ポテンシャルも必要となる。ハイペロンポテンシャルを求めるための格子QCD計算において同時に得られている、ストレンジネス(S=0)チャネルの偶パリティ軌道についての(核力)中心力、テンソル力ポテンシャルが、ハイパー核の少数多体系の計算に利用可能な程度に高い統計で得られていれば、それを用いる。統計が不十分である場合には、平成29年度の中間的な結果としては、AV8'のような現象論的な核力ポテンシャルと格子QCDによるハイペロンポテンシャルという組み合わせによる計算を試験的に実行する。核力並びにハイペロン力の双方にテンソル力が含まれているので、rearrangement の大きさなど、ハイペロンがどのようにして原子核と結合し、ハイパー核として束縛状態を形成するかについてのより詳細な仕組みを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、当該年度中に計算機を購入する予定であったが、大体積かつ物理点に近いクォーク質量での格子 QCD 計算について、ラムダ核子、およびシグマ核子系のポテンシャルを導出するための解析計算は、既存の計算機を使うことで実行可能であったため、研究計画全体の中で、当該年度に新たに計算機を購入しなくても支障は無かった。
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次年度使用額の使用計画 |
少数多体系の計算を実行するため、およびそのコード開発のため、計算機を購入する。
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