研究課題
本研究では殻模型により対角化数値計算を行い、得られた原子核波動関数を用いてシッフモーメント及びEDMを系統的に計算すると共に、原子核の励起メカニズムを解明する。本研究の成果は,質量数200領域の原子核に対して,パリティと時間反転対称性(PT)を破る相互作用により生じるシッフモーメントを計算し,その計算結果を用いて水銀199原子の電気双極子モーメントを評価したことである。重い原子核に対するシッフモーメントの理論研究は,これまで平均場模型による計算しか行われていなかったが,本研究により初めて平均場を超えた枠組みによる数値解析に成功した。本研究の結果により,PTを破る相互作用により生じるシッフモーメントは特定のエネルギーレベルの寄与が重要であることが明らかになった。また本研究では,質量数210領域,質量数220領域の偶偶核・奇核・奇奇核について殻模型による数値解析を実行し,原子核の励起メカニズムを明らかにした。この領域の核子間にはたらく相互作用の研究は現在まで行われてこなかったため,幅広い核種のエネルギー準位や電磁遷移の実験値を再現するように決定した。平成28年度は、質量数200領域(199Hg周辺)について、殻模型と核子対殻模型の両方を用いて、偶偶核・奇核・奇奇核の数値解析を実行した。この際、幅広い領域の実験値を再現できるように有効相互作用を決定した。この波動関数を解析することで原子核構造を明らかにすると共に、シッフモーメントを計算した。さらにその他の成果として,質量数80領域の原子核のニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の評価を行った。
2: おおむね順調に進展している
質量数200領域(199Hg周辺)について、殻模型と核子対殻模型の両方を用いて、偶偶核・奇核・奇奇核の数値解析を実行した。本研究では平成28年度において,質量数200領域の原子核に対し,平均場を超えた枠組みによる原子核構造を計算する計画であったが,予定通りに数値解析を終えることができた。また,この領域の水銀199原子核に対してPTを破る相互作用により生じるシッフモーメントの概略的な計算を行うことができた。また、日本物理学会において発表した。
本研究では本年度(29年度)において,質量数220領域の原子核構造の解明を目指す。この領域の原子核を計算するための計算コードの改良は行っている段階であり,これが完了した後に質量数220領域の有効相互作用を決定する作業に移行する。偶偶核・奇核・奇奇核のエネルギー準位・電磁遷移の実験値を同時に再現するように相互作用を決定し,核子対殻模型の波動関数を詳細に解析することで原子核構造を明らかにする。さらに,PTを破る相互作用により生じるシッフモーメントと核子固有の電気双極子モーメントにより生じるシッフモーメントの評価を行う計画である。この領域では八重極振動(洋なし型振動)が原子核の低エネルギー状態に現れることが知られており、シッフモーメントの評価においても、八重極振動により効果が数千倍にもなると考えられているため、この効果を考慮することが必要不可欠である。殻模型において八重極振動の効果は正パリティ状態と負パリティ状態を同じ枠組みで扱うことで取り入れられるが、これまでの殻模型では、相互作用の対称性からその必要がなかった。そこで、八重極振動の効果を取り入れた殻模型の開発を行い、質量数220領域の数値解析を実行する。また、核子対殻模型においては八重極型集団運動核子対を導入することで、容易に八重極振動の効果を取り入れることができる。既に質量数200領域の原子核について狭い配位空間を用いた数値解析を行い、その結果を日本物理学会で報告しており、質量数220領域の原子核に対しても問題なく計算できると考えている。
本研究では、数値計算を行うためワークステーションが不可欠であるが、平成28年度の数値計算を実行するためには、それほど高額のワークステーションを購入する必要がなかった。ある程度安いワークステーションを購入し、残りを次年度に繰り越すことになった。
平成29年度では、より大規模計算を実行するため、最新型のワークステーションを購入する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件)
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