研究課題/領域番号 |
16K05342
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中田 仁 千葉大学, 大学院理学研究科, 教授 (80221448)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子核の変形 / 平均場理論 / RPA / 南部・ゴールドストーンモード / テンソル力 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は次の通りである。 1. 湯川型関数を含む有限レンジ相互作用にも適用可能な,ガウス関数展開法を用いた平均場計算プログラムを改良し,共役勾配法によるサブルーティンを実装した。これにより,拘束条件付きハートリー・フォック計算が安定的かつ高速に計算を実行できるようになり,軸対称変形核の性質をより詳しく調べるための基盤が整った。 2. 中性子数40-82に亘るZr核に対して軸対称ハートリー・フォック計算を実行し,エネルギー極小点を探索した。特に半微視的有効相互作用を用いた場合に,中性子数に伴う形状変化が概ね適切に得られることが分かった。 3. RPA方程式の解,及びそれに付随する基底ベクトルが持つ2種類の"双対関係"を見出し,安定解だけでなく不安定解まで含めたRPA方程式の解の全貌を数学的に明らかにした。これを基礎として,安定性行列が半正定値ならば正準変数の構成が可能であることを,初めて完全に証明した。さらに,南部・ゴールドストーン解の和則への影響を調べ,南部・ゴールドストーン解が存在する場合でも,RPAが遷移強度とエネルギーの積の総和が二重交換関係の期待値に一致するという和則を正しく与えることを,一般的立場から明らかにした。 4. 半微視的有効相互作用を用いた軸対称ハートリー・フォック計算により,特にN=20及び28核を例として核子間のテンソル力が原子核の変形に与える影響を明らかにした。テンソル力は斥力的であり,摂動的効果と見なせるがその影響は配位に依存する。LS閉殻核ではテンソル力は球形を好む傾向を与えるのに対しjj閉殻核では変形し易くする効果を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平均場計算のための数値計算プログラムの整備が進み,拘束条件付き平均場計算により原子核の変形をより詳しく調べるための基盤が整った。他方,RPA解の性質や,原子核の変形に対するテンソル力の影響など,普遍的に成立する理論的知見を確立したことは,当該研究の推進にも大いに役立つ。
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今後の研究の推進方策 |
変形度を拘束した平均場計算を集中的に実行し,中性子数の増加に伴うZrの構造変化の様子,またその構造変化に対するテンソル力等の相互作用の影響を詳しく調べる。また,プログラムの改良を更に進めた上で対相関を取り入れたハートリー・フォック・ボゴリューボフ計算を行い,四重極変形と対相関の競合または協同についても研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として,ワークステーションが当初計画より若干安価であったため。但し,性能は当初計画と比べ遜色ない。
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次年度使用額の使用計画 |
交付額と実支出額の差額として生じた次年度使用額は,成果発表に使用する計画である。特に,次年度に複数回国際会議での講演を依頼されており本研究のここまでの成果を発表する予定である。申請時に比べてそのための旅費が幾らか余計に必要と見込まれ,このような使途に有効に使用したい。
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