研究課題/領域番号 |
16K05343
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 宏次 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10313173)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子色力学 / クォークグルーオンプラズマ / 高エネルギー原子核衝突 / 相転移 / 符号問題 / 統計力学 |
研究実績の概要 |
【符号問題】0および1次元のフェルミオン模型(Thirring model)について、粒子密度の化学ポテンシャル依存性を複素ランジュバン方程式(CLE)の方法を用いて評価し、解析解と比較することによって正当性を検討した。その結果、密度が変化する遷移領域では、ランジュバン方程式のドリフト項の特異点がサンプルされるために、CLEでは正しい結果が得られないことがわかった。特異点のサンプリングを回避するために、変形されたモデルを参照して統計サンプルを生成する方法と、遷移領域を外れた化学ポテンシャルの値で生成したアンサンブルを用いた再荷重の方法という二通りの方法を試したところ、後者の再荷重の方法が比較的有効であることが明らからになった。この方法の汎用的な優位性について、ランダム行列模型をはじめ他の複数のフェルミオン模型に用いて、今後検討する。
【高エネルギー原子核衝突の非平衡初期過程】事象の初期過程と平衡化機構の理解を目的に、まず、1次元膨張するスカラー場の理論に対して、2PI形式の量子場の運動方程式を解析を準備した。膨張系特有の空間2+1次元系としての座標系のとり方や離散化、数値アルゴリズムの工夫を行い、数値精度を確認するための予備計算を行った。 また、初期に強い古典場が存在する非可換ゲージ場の膨張系について、大学院生と協力して、ボソン・フェルミオンのシュヴィンガー機構による粒子生成と局所平衡化への漸近の可能性を平均場理論を展開して解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、符号問題に関連する0+1次元フェルミオン模型の数値計算に重点を置いて、複素ランジュバン方程式の方法を実行し、成果を得ることができた。また、カイラルランダム行列に対する適用も順調に進んでいる。 一方で、QCDの非平衡場の理論の研究については、膨張系を扱うための枠組み上の定式化を進めたものの、時間的な制約のために本格的な数値計算を次年度に延期することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
【符号問題】有限温度密度のカイラル行列模型に対して複素ランジュバン方程式の方法を適用して検証する。そして、結果を論文にまとめる。その後には、符号問題に対する複素化を伴う別法として注目されている、分配関数の評価を複素配位空間に解析接続して実行するアルゴリズムの検討を中心課題として推し進める。 【衝突初期過程】非平衡場の量子論のシミュレーションの研究比重を大きくする。そのために、今年度延期した計算機資源の拡充を行い、まず、スカラー場の理論について古典場的初期条件から熱平衡化への時間発展の可能性を膨張系に対する数値解析を実行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値計算機環境を拡充する予定であったが、本年度は解析的な予備研究の段階に止まったため、計算機導入を次年度に延期したため。
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次年度使用額の使用計画 |
数値計算機環境の拡充を実施する。
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