本研究は、様々なモデル計算により中性子星内部で実現する高密度物質において実現することが示唆されているカイラル結晶相について、強い磁場による効果を明らかにし、その天文学的帰結を探究するものである。本研究期間中に取り組み明らかにした問題は以下の2つである。
1)低密度側からカイラル結晶状態にせまるボトムアップアプローチとして、核子・中間子が基本自由度として組み込まれ、原子核の飽和性を再現することが知られている「パリティ二重項モデル」を採用し、数値計算による解析を行なった。双対カイラル密度波を中間子場の平均場として記述し、ボゴリューボフ・ドジャンハミルトニアンを対角化することで核子のバンドエネルギーを得た。このタワーをインプットに、平均場近似により有効ポテンシャルを構築し、各密度で実現する状態を決定した。その結果、標準核密度の約5倍程度という比較的低密度領域において、カイラル結晶への一次相転移が起こることが明らかになった。 2)カイラル極限において存在が指摘されている三重臨界点からカイラル結晶にせまるアプローチとして、ギンツブルグ・ランダウ作用による解析を行なった。この三重臨界点近傍では、クォークの質量、外磁場の効果を、系統的に取り入れることが可能である。この結果、磁場がない場合に実現する実カイラルキンク結晶と呼ばれる状態が、磁場の効果によって双対カイラル密度波に取って代わられるということが分かった。双対カイラル密度波は特定の方向の運動量を持ち、回転対称性という観点からはエネルギー的に不利であるが、磁場がある状況では磁場の方向と運動量とロックすることによりエネルギー的に有利になり得るということが原因の1つであることを突き止めた。
なお、当初予定していた天文学的帰結の探究については、現在研究を継続している段階にある。
|