現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
世界初の重力波直接観測の発表から2年が過ぎ,その後にも連星ブラックホールからの重力波が4例,連星中性子星からの重力波が1例観測された.まだ,アインシュタインの一般相対論の検証という観点からは,それらの信号雑音強度比は十分であるとは言い難いが,着実に重力波物理学・天文学の道はひらけてきている. この観点から本研究では,「研究実績の概要」で述べたもの以外にも,様々な重力波に関連する研究を進めた.マージャー段階の重力波の研究に特に有効な,連星ブラックホールの数値シミュレーションに関連して,より良い数値相対論波形を得るための連星系の初期パラメータの研究を推進している(James Healy, Carlos O. Lousto, Hiroyuki Nakano, Yosef Zlochower, Class. Quantum Grav. 34 (2017) 145011). また,合体後のブラックホールが相対論で予言されるものとは異なり,「壁」を持っていた場合,ブラックホールに吸収されるはずの重力波が「こだま」のように聞こえるかもしれない.我々はブラックホール摂動論を用いて,この「こだま」の波形を理論的に導出した(Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Hideyuki Tagoshi, Takahiro Tanaka, PTEP 2017 (2017) 071E01). このように,アインシュタインの一般相対論の検証のため,連星ブラックホールからの重力波のすべての段階,すなわち「インスパイラル」「マージャー」「リングダウン」に対して研究を進めつつ,新たな可能性についても議論を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
地上重力波検出器(Advanced LIGO, Advanced VIRGO, bKAGRA)は,100Hz程度が最も感度が良い.しかしながら,連星ブラックホールからの重力波は,その質量の大きさのために,地上重力波検出器の観測帯域では重力波信号の継続時間が非常に短い.このことが,信号雑音強度比が大きな重力波検出イベントであっても,個々のブラックホールのパラメータ(質量,スピン)を決定する際,さらには,一般相対論の検証においても弱点となっており,克服されなければならない. 地上重力波検出器(高周波数帯)だけでなく,将来計画である宇宙空間重力波検出器(低周波数帯,LISA, B-DECIGO)を組み合わせた多波長重力波観測が重要である.LISAは0.01Hz程度が最も感度が良く,B-DECIGOは1Hz程度に感度のピークがくるように計画されている(Shuichi Sato et al. [including Hiroyuki Nakano], J. Phys. Conf. Ser. 840 (2017) 012010).GW150914のような連星ブラックホールからの重力波は,LISA, B-DECIGO, 地上重力波検出器の全ての観測帯域で検出できる可能性がある. 現在観測されている連星ブラックホールからの重力波イベントに対しては,低周波数帯は「インスパイラル」段階からの重力波を意味する.インスパイラル重力波のさらなる改良を行いつつ,多波長重力波観測によって得られる物理(連星ブラックホールのパラメータ決定精度,一般相対論の検証可能性等)の議論を進めていく.また,現在の地上重力波検出器の感度向上や将来計画も考慮し本研究を推進する.
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