研究実績の概要 |
連星ブラックホールからの重力波を用いた,アインシュタインの一般相対論に対する様々な角度からの厳格な検証法を確立することが,本研究の目的である.具体的には,ブラックホールが一般相対論で予言されるものなのかどうか?強い重力場での一般相対論(アインシュタイン方程式の非線形性)は正しいのか?という問いに答えることができるようにすることである. 昨年度改良を行った同質量程度のブラックホールからなる連星からのインスパイラル重力波の理論波形をもとに,連星ブラックホールのパラメータ(質量・スピン等)をより良く抽出するために,地上重力波検出器(aLIGO, advVirgo, KAGRAや次世代重力波検出器等)と宇宙空間重力波検出器(B-DECIGO,LISA等)を組み合わせることを考えた.パラメータ決定精度は,信号雑音強度比だけでなく,観測周波数帯域の広さにも依存する.例えば,GW150914のような連星ブラックホールの場合には,現在の地上重力波検出器による観測だけでなく,B-DECIGOを用いることにより,パラメータ決定精度が大幅に向上することを示した.当然のことながら,次世代重力波検出器(Einstein Telescope等)もまた有用である. 一方で,宇宙空間重力波検出器LISAのターゲットとなっている,質量比が大きく異なるコンパクト天体連星系からのインスパイラル重力波を構築する上で重要となる重力波輻射の反作用力の研究を行った.作用・角変数を用いた定式化は見通しが良く,これまでに行ってきた議論を再確認する上でも理解が進んだ.さらに,共鳴軌道と呼ばれる状態に対しても,重力波輻射の反作用力を定式化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連星ブラックホール・連星中性子星からの重力波が,地上重力波検出器(aLIGO, advVirgo)によって次々と観測されている.着実に重力波物理学・天文学の道はひらけてきているが,まだ,連星パラメータの決定精度は十分ではない.アインシュタインの一般相対論の検証を行うためには,パラメータ決定精度を向上させる必要がある. 同質量程度のブラックホールからなる連星からのインスパイラル重力波に関しては,ある周波数帯域における感度向上を目指す次世代計画(Einstein Telescope, Cosmic Explorer等)だけでなく,宇宙空間重力波検出器を含んだ「多波長重力波観測」が,一般相対論の検証のために重要である(Soichiro Isoyama, Hiroyuki Nakano, Takashi Nakamura, PTEP 2018 (2018) 073E01). 一方で,宇宙空間重力波検出器を考えた場合,EMRIs(Extreme mass ratio inspirals)と呼ばれる質量比が大きく異なるコンパクト天体連星系からの重力波が,ブラックホール時空を検証する上で鍵となる.EMRIsからの理論重力波波形をより構築しやすくなると考えられる重力波輻射の反作用の定式化を行った(Soichiro Isoyama, Ryuichi Fujita, Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Takahiro Tanaka, PTEP 2019 (2019) 013E01). このように,多波長における重力波観測を視野に入れ,本年度は特に「インスパイラル重力波」に注目することで,アインシュタインの一般相対論の検証の議論を進めてきた.
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今後の研究の推進方策 |
「リングダウン」部分の信号雑音強度比は「インスパイラル」や「マージャー」部分と比較すると小さい.このことから,アインシュタインの一般相対論の検証においては不利ではあるが,ブラックホール自身の性質を知るうえで欠くことのできない部分である.重力波データ解析を行っている共同研究者と共に,一般相対論からのずれを含んだシミュレーション波形を用いて,どこまで検証できるのかを明らかにする. 同質量程度のブラックホールからなる連星からのインスパイラル重力波の研究において,現在までのところ,多くの理論波形は「準円軌道」「軌道面・スピンの歳差運動無し」という状況で導出されている.しかしながら,スピンが軌道角運動量と同じ方向でない場合,歳差運動が生じる.また,連星系の成り立ちの状況に依っては,観測周波数帯域において離心率を持った軌道もありえる.このことから,楕円軌道かつ歳差運動を含む一般軌道からのインスパイラル理論重力波波形を構築しておく. 一方で,質量比が大きく異なるコンパクト天体連星系からのインスパイラル重力波は,「kludge waveform」と呼ばれる非常に精度の悪い波形が用意されているのみである.論文(Norichika Sago, Ryuichi Fujita, PTEP 2015 (2015) 073E03) をもとに,精度のより良い理論重力波波形の構築に取り組む. 上記の研究を進め,多波長重力波観測によるアインシュタインの一般相対論の検証法の確立を目指す.
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