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2019 年度 実施状況報告書

連星ブラックホールからの重力波による一般相対論の多角的な検証法の確立

研究課題

研究課題/領域番号 16K05347
研究機関龍谷大学

研究代表者

中野 寛之  龍谷大学, 法学部, 准教授 (80649989)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2021-03-31
キーワード重力波物理学 / 重力波天文学 / 重力波 / ブラックホール / 一般相対性理論
研究実績の概要

連星ブラックホールからの重力波を用いた,アインシュタインの一般相対論に対する様々な角度からの厳格な検証法を確立することが,本研究の目的である.具体的には,ブラックホールが一般相対論で予言されるものなのかどうか?強い重力場での一般相対論(アインシュタイン方程式の非線形性)は正しいのか?という問いに答えることができるようにすることである.
理論重力波波形の研究として,コンパクト天体連星系からのインスパイラル重力波の精密な導出を行っている.昨年度までは,同質量程度のブラックホールからなる連星系が,「準円軌道」かつ「軌道面・スピンの歳差運動無し」であるという仮定をおいて,解析的な重力波波形を導出していた.本年度は,これらの仮定を取り除き,離心率を持った軌道であり,スピンが軌道角運動量と同じ方向でない場合に生じる歳差運動を含んだ理論重力波波形を数値計算を用いて構築した.これは,完全に一般的な運動をする連星系からの重力波波形を得たことを意味する.今後,この理論重力波波形は,重力波データ解析等で利用されることになる.
重力波データ解析の観点からは,連星ブラックホールの合体後に放射されるリングダウン重力波,ブラックホールに「壁」があった場合に放射されるエコー(こだま)重力波に対して研究を進めた.リングダウン重力波については,一般相対論から導出される振動数の実部・虚部(減衰率の逆数に対応)からずれた場合に,重力波データ解析により一般相対論からのずれを見出せるかについて議論した.振動数の実部については,信号雑音強度比が15程度で7%程度のずれを区別できることが分かった.一方,振動数の虚部については,信号雑音強度比が30程度の時でさえ,30%程度以上のずれしか区別できないことが分かった.エコー重力波については,現在までの重力波観測データには含まれていない可能性が高いことが分かった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

地上重力波検出器(aLIGO, advVirgo)は第3次観測(O3)を終了し,さらに多くの重力波を検出した.重力波物理学・天文学の進展は目覚ましく,重力波観測データが公開されていることから,(Nami Uchikata, Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Norichika Sago, Hideyuki Tagoshi, and Takahiro Tanaka, Phys. Rev. D 100, 062006 (2019))では,我々が提案した理論重力波波形を用いて,エコー重力波の有無を確認することができた.
これまで観測されているコンパクト天体連星系からの重力波は,「準円軌道」の仮定と無矛盾である.ただ,一般軌道運動からの重力波を見落としている可能性がある.一般軌道運動からの精密な重力波波形は,非常に複雑なために導出されていなかったが,(Brennan Ireland, Ofek Birnholtz, Hiroyuki Nakano, Eric West, and Manuela Campanelli, Phys. Rev. D 100, 024015 (2019))により与えた.
さらに,(Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Ken-ichi Oohara, Kazuki Sakai, Hisa-aki Shinkai, Hirotaka Takahashi, Takahiro Tanaka, Nami Uchikata, Shun Yamamoto, and Takahiro S. Yamamoto, Phys. Rev. D 99, 124032 (2019))では,リングダウン重力波に対して5つの重力波データ解析法を用い,これまでの観測の限界や,さらなる問題点を明らかにすることができた.

今後の研究の推進方策

リングダウン重力波による一般相対論の検証は,現在の地上重力波検出器の感度では,十分に行うことができないことが分かっている.しかし,ブラックホール自身の性質を知るうえで欠くことのできない重力波波形の部分である.また,重力波検出器の高感度化も将来的に計画されている.このことから,将来計画を見据えてのリングダウン重力波観測の研究を進めていく.逆に,この研究によって得られる結果を,日本の重力波検出器KAGRAのアップグレードに対して,フィードバックすることを目標とする.
一方で,平成30年度に行っていた多波長重力波観測によるアインシュタインの一般相対論の検証法の研究の進展が滞っている.特に,宇宙重力波検出器のターゲットの1つである,質量比が大きく異なるコンパクト天体連星系からのインスパイラル重力波に焦点を当て,(Norichika Sago, Ryuichi Fujita, PTEP 2015 (2015) 073E03)の論文をもとに,精度のより良い理論重力波波形の構築に取り組む.一般軌道運動からの重力波を取り扱うことから,本年度の研究成果とも関連しており,本年度中に完遂する.
また,本研究の最終年度であることから,特に,インスパイラル理論重力波波形に関するレビュー論文を出版する.理論重力波波形は1つではなく,「準円軌道」の仮定の下でも様々な定式化がある.aLIGO, advVirgoの重力波データ解析においても,様々な理論波形が用いられており,スタンダードな重力波データ解析ソフトウェア「LSC Algorithm Library Suite (LALSuite)」に準備されている.本レビュー論文により,新しく重力波物理学・天文学に参加した後継が柔軟にこれらを使用できるように,重力波理論・データ解析の観点から整理を行う.

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症の影響により,日本物理学会第75回年次大会(2020年)(名古屋大学東山キャンパス3月16日~19日)が現地開催中止と決定されたため,次年度使用額が生じた.次年度も多くの学会,研究会等の現地集会の見通しが立たないため,オンラインでの研究環境を整備することを計画している.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] ロチェスター工科大学/ミネソタ大学ダルース(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ロチェスター工科大学/ミネソタ大学ダルース
  • [雑誌論文] Searching for black hole echoes from the LIGO-Virgo catalog GWTC-12019

    • 著者名/発表者名
      Uchikata Nami、Nakano Hiroyuki、Narikawa Tatsuya、Sago Norichika、Tagoshi Hideyuki、Tanaka Takahiro
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 100 ページ: 062006

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.100.062006

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Eccentric binary black holes with spin via the direct integration of the post-Newtonian equations of motion2019

    • 著者名/発表者名
      Ireland Brennan、Birnholtz Ofek、Nakano Hiroyuki、West Eric、Campanelli Manuela
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 100 ページ: 024015

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.100.024015

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Comparison of various methods to extract ringdown frequency from gravitational wave data2019

    • 著者名/発表者名
      Nakano Hiroyuki、Narikawa Tatsuya、Oohara Ken-ichi、Sakai Kazuki、Shinkai Hisa-aki、Takahashi Hirotaka、Tanaka Takahiro、Uchikata Nami、Yamamoto Shun、Yamamoto Takahiro S.
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 99 ページ: 124032

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.99.124032

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Vibration isolation system with a compact damping system for power recycling mirrors of KAGRA2019

    • 著者名/発表者名
      KAGRA collaboration [including Hiroyuki Nakano]
    • 雑誌名

      Classical and Quantum Gravity

      巻: 36 ページ: 095015~095015

    • DOI

      doi.org/10.1088/1361-6382/ab0fcb

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] First cryogenic test operation of underground km-scale gravitational-wave observatory KAGRA2019

    • 著者名/発表者名
      KAGRA collaboration [including Hiroyuki Nakano]
    • 雑誌名

      Classical and Quantum Gravity

      巻: 36 ページ: 165008~165008

    • DOI

      10.1088/1361-6382/ab28a9

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Space gravitational-wave antennas DECIGO and B-DECIGO2019

    • 著者名/発表者名
      Kawamura Seiji et al. [including Hiroyuki Nakano]
    • 雑誌名

      International Journal of Modern Physics D

      巻: 28 ページ: 1845001~1845001

    • DOI

      doi.org/10.1142/S0218271818450013

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Analytical adiabatic waveform of extreme mass-ratio inspirals2019

    • 著者名/発表者名
      磯山総一郎, 藤田龍一, 佐合紀親, 中野寛之
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会
  • [備考] 連星ブラックホールからの重力波による 一般相対論の多角的な検証法の確立(16K05347)

    • URL

      https://sites.google.com/site/denden919/home/research/16k05347

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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