現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地上重力波検出器(aLIGO, advVirgo)は第3次観測(O3)を終了し,さらに多くの重力波を検出した.重力波物理学・天文学の進展は目覚ましく,重力波観測データが公開されていることから,(Nami Uchikata, Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Norichika Sago, Hideyuki Tagoshi, and Takahiro Tanaka, Phys. Rev. D 100, 062006 (2019))では,我々が提案した理論重力波波形を用いて,エコー重力波の有無を確認することができた. これまで観測されているコンパクト天体連星系からの重力波は,「準円軌道」の仮定と無矛盾である.ただ,一般軌道運動からの重力波を見落としている可能性がある.一般軌道運動からの精密な重力波波形は,非常に複雑なために導出されていなかったが,(Brennan Ireland, Ofek Birnholtz, Hiroyuki Nakano, Eric West, and Manuela Campanelli, Phys. Rev. D 100, 024015 (2019))により与えた. さらに,(Hiroyuki Nakano, Tatsuya Narikawa, Ken-ichi Oohara, Kazuki Sakai, Hisa-aki Shinkai, Hirotaka Takahashi, Takahiro Tanaka, Nami Uchikata, Shun Yamamoto, and Takahiro S. Yamamoto, Phys. Rev. D 99, 124032 (2019))では,リングダウン重力波に対して5つの重力波データ解析法を用い,これまでの観測の限界や,さらなる問題点を明らかにすることができた.
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今後の研究の推進方策 |
リングダウン重力波による一般相対論の検証は,現在の地上重力波検出器の感度では,十分に行うことができないことが分かっている.しかし,ブラックホール自身の性質を知るうえで欠くことのできない重力波波形の部分である.また,重力波検出器の高感度化も将来的に計画されている.このことから,将来計画を見据えてのリングダウン重力波観測の研究を進めていく.逆に,この研究によって得られる結果を,日本の重力波検出器KAGRAのアップグレードに対して,フィードバックすることを目標とする. 一方で,平成30年度に行っていた多波長重力波観測によるアインシュタインの一般相対論の検証法の研究の進展が滞っている.特に,宇宙重力波検出器のターゲットの1つである,質量比が大きく異なるコンパクト天体連星系からのインスパイラル重力波に焦点を当て,(Norichika Sago, Ryuichi Fujita, PTEP 2015 (2015) 073E03)の論文をもとに,精度のより良い理論重力波波形の構築に取り組む.一般軌道運動からの重力波を取り扱うことから,本年度の研究成果とも関連しており,本年度中に完遂する. また,本研究の最終年度であることから,特に,インスパイラル理論重力波波形に関するレビュー論文を出版する.理論重力波波形は1つではなく,「準円軌道」の仮定の下でも様々な定式化がある.aLIGO, advVirgoの重力波データ解析においても,様々な理論波形が用いられており,スタンダードな重力波データ解析ソフトウェア「LSC Algorithm Library Suite (LALSuite)」に準備されている.本レビュー論文により,新しく重力波物理学・天文学に参加した後継が柔軟にこれらを使用できるように,重力波理論・データ解析の観点から整理を行う.
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