研究課題
量子色力学(QCD)で記述される超高エネルギーでの重イオン衝突の初期状態のダイナミクスは古典場近似がよくなりたつことが知られている。我々は今年度までに、QCDの半古典近似のもと伏見関数やコヒーレント状態を用いて熱化、すなわち、エントロピー生成を世界で初めて直接計算し、合わせて等方化との相関を解析している。その結果、QCDは古典近似の妥当な赤外ダイナミクスにより確かにエントロピーが有意に生成されることが示されるなどの成果が得られている。今年度は、古典場そのもの持つ非平衡ダイナミクスの特性を明らかにするために非線型自己結合を持つ古典場がどのような粘性率かの研究をグリーン-久保公式を用いて行った。これは世界的にもほとんど先例のない研究であるためにQCDではなくφ^4結合を有する古典スカラー場理論を用いた。古典場理論はレイリー-ジーンズ型の発散を生むので物理的考察により決まる切断(カットオフ)を入れる。格子上に場を定義し異なる時間でのエネルギー-運動量テンソルの積の熱平衡アンサンブルについての平均、すなわち、時間相関関数を求める。そこでの場の時間発展は、熱平衡分布に従って生成した初期状態から出発して古典場の運動方程式を解いて計算される。(ずり)粘性係数はこの時間相関関数をフーリエ変換して得られるスペクトル関数の極限値として求められる。数値計算の結果、以下のことが分かった:1)時間相関関数は初期の減衰振動的な振る舞いの後、緩やかな単調減少を示す。2)後者の成分が粘性係数の値を事実上決定する。3)得られた粘性係数は、量子場の「硬い成分」の寄与を与えると考えられる場の量子論での摂動計算の結果に比べると小さい。このことは、スカラー理論全体での粘性率は赤外成分のダイナミクスのよい記述を与える古典場による寄与が支配的であることを意味する。
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Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2018 ページ: 013D02-1, 17
10.1093/ptep/ptx186