研究課題/領域番号 |
16K05366
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
板倉 数記 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (30415046)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近藤効果 / 非可換相互作用 / 重いクォーク / 不純物効果 |
研究実績の概要 |
今までの研究によって、物性系で盛んに議論されてきた近藤効果が、QCD物質系(クォーク物質や核物質系)においても発現することが明らかになった。近藤効果の特徴は、多体効果と非線形相互作用によって(軽い粒子系に混入した)重い粒子と軽い粒子との相互作用が増大し、その結果軽い粒子のバルクな性質にも影響を与えるというものであり、従ってそれらの性質を有するQCD物質でも近藤効果が見られるのは自然である。似たような現象はQCDではカイラル対称性の破れとして知られており、それを扱うのと同様の場の理論的な定式化が可能だろうと想像できた。そのため我々は、軽いクォークと重いクォークの間に4体Fermi相互作用を持つ簡単な模型を用いて、(カイラル対称性の破れの解析でも最初にやられたように)平均場近似を行って近藤効果に関係するような「凝縮」が可能かどうかを調べた。その結果、軽いクォークと重いクォークとの間で作られる凝縮が重要で、それがゼロの基底状態に比べて、非ゼロの状態の方がエネルギー的に安定であることや、その基底状態のまわりのゆらぎにはmass gapが存在することなどを明らかにした。我々は、近藤凝縮が非ゼロである状態を「近藤相 Kondo phase」と呼ぶことにした。これは、軽いクォークの化学ポテンシャルμ、重いクォークの化学ポテンシャルに相当する量 λ の平面上のある一部分を示すものである。この場の理論的な定式化は既にかなり以前から行っており、論文にまとめていたがなかなか出版されなかった。今年度、何度目かの改訂を行い、より明確な論文として出版に至ることができた。これらの改訂作業は、結果に対する理解を深めるのに有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要に述べたように、重要な論文の出版に時間がかかり、その論文の他に今までの知見をまとめた長い論文を執筆し、さらに、現在も引き続き別のレヴュー論文を執筆していることもあり、新しい課題に取り組むのに遅れが出ている。しかし、これらの論文において多くの重要な知見を改めてまとめる事ができたため、今後の研究を進めるにあたっては良い過程であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
様々な方向への展開か可能である。最も重要なものの一つに、現実的なQCD物質(中性子星中の高密度クォーク物質や高エネルギー重イオン衝突でのクォーク・グルーオンプラズマ)に対するQCD近藤効果の影響を定量的に評価する事である。今までは軽いクォークと重いクォークの間の相互作用が強くなることにより、クォークグルーオンプラズマの電気伝導度やカラー伝導度に影響があるだろうという示唆的な議論に留まっていたが、それらを実際に計算することを考えてい る。(一部、予備的な論文が出ているが解析が不十分なため再考する必要がある)
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次年度使用額が生じた理由 |
概要に述べたように、主に論文の作成と出版の作業が予想よりも大幅に時間がかかったことを第一の原因として、研究の進捗が良くない。そのため、国際会議に出席する予定を取りやめることにした。
今回、研究事業を1年間延期することで、今まで予定していた計算(特に、QCD近藤効果の現実的状況に対する応用と他の物理量の評価)に取り組むことができる。
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