研究課題/領域番号 |
16K05368
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
吉田 浩司 山形大学, 基盤教育院, 教授 (80241727)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 粒子線検出器 / カロリメーター / シンチレックス |
研究実績の概要 |
平成28年度は主に以下の2項目について重点的に研究を推進した。 (1) 新素材シンチレックスを発光体として採用した試作サンドイッチカロリメーター(鉛板2mm+シンチレックス5mmx20層)のビームテストについてのデータ解析。その応答特性について、プラスティックシンチレーターの従来品(EJ-200)を発光体として採用した同一構成のテスト検出器と詳細な比較をおこなった。(東北大学電子光理学研究センターにおける100―800MeVの陽電子ビームを使用。)獲得光電子数、応答の直線性、エネルギー分解能が主な解析対象である。1mm厚のシンチレックスを積層して構成しなければならなかったという不利のため、獲得光電子数性能については劣った結果となったものの、得られたエネルギー分解能については、その統計項においては、シンチレックスを採用したカロリメーターでも遜色は見られない結果となった。 (2) 山形大学の物性実験グループの協力を得て、シンチレックスの吸光特性、発光特性などの物理特性について詳細な測定をおこなった。主な測定事項は以下の通り。吸収波長/発光スペクトル/発光量の温度依存性/減衰時間の温度依存性/熱発光/宇宙線を使用した波形の測定。シンチレックスの物理特性をここまで明らかにできたのは世界初のことと思われる。なかでも減衰時間の測定結果は、ビーム実験時や宇宙線測定時における、シンチレックスからの信号波形の特徴をよく説明できるものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は以下の点において研究の進捗があった。 1.シンチレックスを発光体に採用したサンドイッチカロリメーターの試作研究では、以下に述べる項目について一貫した研究として大学院生の修士論文としてまとめあげることができ、今後の研究開発のための基礎資料としての知見を得ることができた。(1) シンチレックスの吸光発光特性測定 (2) GEANT4を用いた数値シミュレーションとテスト用検出器の基礎デザイン (3) 粒子ビームに対するシンチレックスの出力信号(波形)の特徴 (4) ビーム実験における応答特性(獲得光電子数、直線性、分解能) (5) その結果と数値シミュレーションとの比較。 2.シンチレックスの発光物性について詳細な測定をおこなうことができたが、多くは世界で初めての試みと思われる。上記のビームテスト時において観測された出力信号(波形)の時間特性や、宇宙線を用いたベンチテストにおける出力信号の特徴を説明できるような実験結果を、この蛍光測定から得ることができた意義は大きい。発光量の温度依存性の測定、減衰時間の温度依存性の測定、熱発光の測定などからは、シンチレックスのシンチレーターとしての素性の良し悪しを物語るデータを得ることができ、実際に粒子線検出器に応用する(デザインする)際には、その基盤となる重要なデータであると考えられる。 以上、総合的に勘案して標記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに (1) 単純構造を採ったときのサンドイッチカロリメーターとしての基本性能、(2) シンチレックスのシンチレーターとしての諸物性、を明らかにしてきたので、次の段階として、J-PARC E14 STEP2の検出器に求められる大型化の要件ならびに位置測定性能の向上に着手していく。具体的には、Wave Length Shifter (WLS)ファイバーやWLSシートをシンチレーター層に挟み込んだり、サンドイッチ内部でシンチレックスそのものをホドスコープ的に配置したりして位置分解能の向上を図ること等を試みる。STEP2では大面積をVETO検出器で覆わなければならないので、集光系の工夫により光電子増倍管やMPPC等の光センサデバイスの数量の肥大化を抑制することはコスト的にも必須である。 またWLSファイバー集光系ということに関連づけて、シンチレックスではなく、PET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)を発光体とした検出器の可能性も探っていく。PETはシンチレックスに比べ、発光波長は短波長寄りであり、光電子増倍管の感度領域からずれることから、一般には不向きと考えられているが、より短波長寄りに感度のあるWLSファイバーを用いれば効率よくPET樹脂の発光を集光できる可能性がある。PETはシンチレックスに比べてポピュラーな素材であり、安価で、機械的強度にも優れているので、サンドイッチカロリメーターに応用できれば、J-PARC E14 STEP2計画にとって、コスト的に大変魅力的な素材であるといえる。
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