研究課題
東京大学原子核科学研究センターの低エネルギー不安定核分離施設(CRIB)において、26Mg安定核ビームを使用し、26Al不安定核ビームを初めて生成した。生成エネルギーを巧妙に選択することにより、得られた不安定核ビームの中に、核異性体(アイソマー)が大量に存在することを確認できた。これにより、我々の考案したアイソマービーム生成機構が確かに働くことが実証された。実際のビーム照射時のガンマ線、ベータ線測定と、線源による較正、検出器の配置を考慮したシミュレーションなどにより、得られたアイソマービーム純度は、26Alビーム全体と比較し、最大約40%であることを決定した。これは期待よりも低い値ではあるが、十分に研究目的を果たすことのできるものである。26Alビーム強度は最大3×10^5 個/秒を達成した。また、平成29年度に計画していた、アイソマービームを用いた陽子共鳴散乱実験を、予定を繰り上げて平成28年度末に遂行することができた。ビーム検出器、ガンマ線検出器、ポリエチレン標的、反跳陽子検出テレスコープからなる、計画通りの実験装置を組み上げ、全11日間の測定を完了した。反跳陽子検出テレスコープは、厚いシリコン検出器が必要であったが、本科研費により1.5mmのシリコン検出器を含むテレスコープを制作することができた。測定は、ポリエチレン標的に26Alビームを照射し、散乱により反跳した陽子をテレスコープで検出し、散乱角度・エネルギーを決定するという内容であった。共鳴散乱実験のデータ解析には通常長い時間がかかるが、実験中の解析で、既に共鳴構造らしきものが観測されており、今後の解析により、爆発天体における26Alの破壊反応について重要な知見が得られることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
CRIB施設においては、26Alアイソマービームの生成のみならず、26Al不安定核ビームの生成も、本研究が初めての挑戦であったが、実際に生成に成功し、天然存在比が10%程度の26Mgの安定核ビームを使ってもなお、実験に利用できるアイソマー純度・強度を達成できたことは非常に満足すべき結果である。更に、共鳴散乱実験は、平成29年度に行う予定であったが、加速器実験運用の都合により、予定を繰り上げて平成28年度内に行うという決断をした。結果的に予定通りの測定を完了することに成功し、興味深い議論を生む見込みのあるデータを得る事ができた。現時点ではアイソマー純度には若干の不定性があり、散乱データの解析も限定的ではあるが、当初の計画より早いペースで研究が進行している。
得られたアイソマービームの純度については、約40%という推定は出来たものの、ベータ線測定とガンマ線測定、またビームを異なる材質・厚さの標的に打ち込んだ場合の多様な測定データの間に若干の差異が見られ、統一的な説明ができていない。検出器の検出効率較正データの見直しや、ガンマ線のバックグラウンド差し引き、シミュレーションの精密化により、最大1割程度の精度でアイソマービーム純度を決定したい。アイソマービーム純度を決定した後、取得した共鳴散乱データの解析を行う。データ解析はこれまでの実績があり、基本的に以前の実験と同様の手順を踏襲する。具体的には、各散乱イベントを運動学的計算によって散乱における重心系エネルギーを導出し、さらに、各エネルギーにおける微分断面積を計算する。微分断面積のスペクトルに現れる共鳴をR-matrixの手法でフィットし、共鳴のパラメータを得る。この際、ビーム粒子の26Al基底状態とアイソマーの混合が問題になるが、基底状態の散乱についてはオークリッジ研究所の散乱実験のデータが存在し、混合比が分かれば差し引きが可能であると考えられるが、実際にデータ解析を進めながら妥当な共鳴パラメータの導出ができるか検討する。共鳴パラメータの導出が完了した後には、標準的な共鳴公式に従って26Alの破壊反応を定量的に評価し、高温天体の26Al生成量シミュレーションが変更を受けるかどうか判定する予定である。
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