本研究では、スーパーカミオカンデ(SK)の次期計画であるSK-Gdにおいて、T2K長基線ニュートリノ振動実験などニュートリノ振動測定に対する物理的インパクトを研究する。SK-Gdでは硫酸ガドリニウム(Gd)をSK内の純水に0.2%溶解することにより、ニュー トリノ相互作用による反跳中性子を高効率で識別することが可能となり、特にニュートリノと反ニュートリノ反応を識別する能力が著しく向上する。 研究ではまずSK-Gdのモンテカルロシミュレーター、および、反跳中性子信号の検出アルゴリズム開発を行った。シミュレータにはSK実験のものをベースに、GEANT4での中性子ーガドリニウム反応ライブラリを取り込み改良した。検出アルゴリズムはニューラルネットを用いた機械学習法により検出効率の最適化を行い、その結果、およそ80%の高検出効率、約2%のバックグラウンド率を達成した。また、ガドリニウム溶解による水質変化に対する水チェレンコフ検出器の性能への影響も、実際のガドリニウム水での光透過率測定データを用い、ガドリニウム有り/無しによる検出器性能を比較し、大きな影響がないことを確認した。 これらの研究を元に、T2K実験を仮定したニュートリノビームシミュレーションを行い、実際に中性子検出によるニュートリノ・反ニュートリノ識別が有効であることを検証した。残念ながら、T2Kではビーム中でのニュートリノおよび反ニュートリノの割合の測定が非常に精度よく測定されているおり、ガドリニウムによる反ニュートリノ識別によるニュートリノ振動測定への大きな向上は見られなかったが、今後は同じエネルギー領域にある大気ニュートリノなどにもこの研究課題で開発された反ニュートリノ識別手法を応用する予定である。
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