研究課題/領域番号 |
16K05378
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
児玉 康一 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (70211901)
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研究分担者 |
市村 雅一 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (20232415)
中村 光廣 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (90183889)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エマルション / 宇宙線 / デジタルアーカイブ |
研究実績の概要 |
平成28年度は、エマルション飛跡の自動読み出し装置HTSを使ってのRUNJOBフィルムからの飛跡読み出しを、システマティックに行なう体制の整備を行った。その中でRUNJOB 1997年フライトのチェンバー最上流エマルションプレート4枚の全面読読み出しを行なった。 名古屋大学F研究室で開発を進めてきた、エマルションに記録された素粒子飛跡の自動読み出し装置の最新機HTS ( Hyper Track Selector ) を使っての飛跡読み出しを可能にするためには、RUNJOBプレートの乳剤層を60ミクロン程度の厚みに膨らませる、膨潤処理が必要であり、この処理を愛知教育大学で行なえる体制を整えた。膨潤処理をしたエマルションプレートは、名古屋大学に持ち込み、HTSによる飛跡全面読み出しを行なう。 読み出した飛跡データは、プレート1枚あたり40Gバイト程度であり、データ処理に伴い作成する中間データを含めると、プレート1枚の処理に、現在のところ、400Gバイト程度必要になる。これに見合う様に、ハードディスクストレージ、メモリ搭載量など、処理用PCの強化を行ないつつ、読み出した飛跡データの処理を進めた。 これまでHTSでの飛跡読み出し実績のあるGRAINEプレートなどに比較して、RUNJOBプレートの飛跡密度は高い。ソフトウェアによる飛跡の再構成処理は、この高い飛跡密度に対処すべく、処理速度の高速化をはじめとする、いくつかの最適化を行いながら、問題なく進める事ができた。 この飛跡の再構成処理の各段階での、処理結果の品質管理に必要な各種グラフを作成し、ウェブ上での閲覧を容易にするためのソフトウェアは、データ公開に必須のものである。それら必要なコードの準備に関しては、当初計画に比較して、少し遅れているが、目途が立ちつつある状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HTSで素粒子飛跡を認識し読み出すためには、60ミクロン程度の乳剤層の厚みが必要である。RUNJOBプレートの現像後の乳剤厚はその半分程度しかないため、これを膨らませ、HTSでの飛跡読み出しに必要な乳剤厚を確保する膨潤処理が必要である。今年度から、愛知教育大学で、この膨潤処理を行なえる体制を整えた。 膨潤処理をしたエマルションフィルムは、名古屋大学に持ち込み、HTSによる飛跡の全面読み出しを行なうが、RUNJOBプレートの大きさは500ミリ×400ミリであり、そのままHTSのXYステージ上に設置するのには無理がある。そのため、膨潤処理前にプレートを250ミリ×400ミリ2枚に分割した。この分割したプレートの設置に必要なアクリル板アタッチメントは、専用のものを用意し、設置の際の位置決めを、できるだけ容易に行える様にした。 飛跡の読み出し条件は、Pulse Height Threshold ≧9とした。飛跡の検出効率の観点からはより低いThresholdが望ましいが、一段低いThresholdの読み出しでは、データ量が約10倍になり、現行のソフトウェアによる飛跡データの再構成処理では、時間がかかりすぎるなど、不適当であると判断した。この点は、今後解決すべき処理コード開発の課題である。 HTSで読み出したエマルション乳剤層中の飛跡断片 (MicroTrack) から、(1) エマルションプレート1枚を貫通する飛跡 (BaseTrack) の再構成を行う。(2) これらBaseTrackを使ってのプレート間の相対位置を決定する。(3) この相対位置を使い、プレート対間でのBaseTracどうしの接続 (Linklet) を作成する。(4) Linkletどうしを接続し、チェンバー中の飛跡 (Chain) を再構成する。といった一連の標準処理は、処理コードの最適化(主に高速化)を行いながらではあるが、問題なく進める事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
膨潤作業とHTSでの素粒子飛跡の読み出し作業は、愛知教育大学の学生アルバイトなどを活用して、基本的には問題なく進められると考えている。しかしながら、手塗りのエマルションプレートであることもあり、乳剤厚のばらつきなど、今後、作業を進めて行く上で留意すべき点は多い。 処理ソフトウェアに関しては、主に処理速度の点で、現行の、更に10倍程度の高速化が必要であると考えており、PC単体での処理能力の向上、複数PCでの分散処理、コードの最適化など、多面的な対応を取り入れて行くことになる。多くの開発要素を含む、難しい作業になるが、名古屋大を中心にして、エマルション技術に立脚した、素粒子物理学にとどまらない、多様な研究を推進するグループが、複数立ち上がってきており、それらのグループで協力して、推進できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学生アルバイトを活用しての、エマルションプレートの膨潤作業およびHTSでの読取り作業を予定していたが、予定していた学生の都合などで年度内に十分行う事ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
全額を上記「理由」に述べた使途で使用する予定である。
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