私達は、SPring-8において1.5-2.95 GeVの直線偏光フォトンと陽子標的を用いて、π中間子生成実験を行った。π-Δ++反応では uクォーク-反uクォークのペアが生成されて、π+Δ0反応では dクォーク-反dクォークが生成される。LEPS実験で使用する検出器は、前方角度においてπ-とπ+を同じ検出効率で検出するので、2つのクォークペアの生成を高精度で比較する事ができる。 超前方角度にπ中間子が生成されたイベントでは、断面積比σ(π+Δ0)/σ(π-Δ++) がほぼ1/3に成ることがわかった。断面積比1/3は t チャンネルでのπ中間子やρ中間子の交換から予測される値であり、私達のハドロン生成に対する理解が正しい事が確認できた。大きい角度に生成されたイベントでは、断面積比が1に近い値になった。中間状態でΔ*が励起されているとも考えられるが、寄与が無視できる高エネルギー(16 GeV)データでも断面積比は1に近い事から、アイソスピン2のエキゾチックな粒子が交換されているか、陽子の中の反dクォークが反uクォークよりも多い事が影響している可能性が考えられる。 2018年10月には、データ解析をしている大学院生と共にCERN研究所の研究者と議論を行い、その後ロシアで開催された国際会議EMIN2018において最新の研究結果の発表を行った。 π-Δ++反応データに関しては、フォトンビーム非対称度が負の値をとる通常とは異なる面白い発見をして、私が筆頭著者になり2018年5月に最終結果をPhysical Review Letters誌に発表する事ができた。中性子標的のπ-Δ+反応とπ+Δ-反応の断面積比の測定に関しては、ビームタイムの割り当ての問題により、20%程度のデータ収集しか行えなかった。今後1-2年の間にはデータ収集を終了して、その後1年程度で論文として発表する予定である。
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