研究課題
1.理化学研究所RIビームファクトリーにおいて、本課題で開発中の偏極陽子固体標的を用いた加速器実験を遂行した。目的は、陽子-6He間のスピン軌道相互作用を明らかにすることである。実験はSAMURAIビームラインにおいて、14機関、62名のコラボレーションで遂行した。データ解析により、正しく弾性散乱事象が観測されていることを確認した。2.偏極陽子固体標的の開発:本年度は、(2-a)新波長レーザーの導入による偏極生成効率の増大を遂行した。従来の514nm波長レーザーに比べてペンタセン分子が吸収しやすい波長(556nm)を持ち、大きなパルス強度(1mJ)・平均光量(3W)を有する新レーザーを導入した。これにより、同じ平均光量あたりで3.3倍、最大光量で8.9倍の偏極生成効率の増大に成功した。(2-b)低エネルギービーム実験のため、標的の磁場領域の短縮による高磁場・高偏極化の可能性を検討した。実験においては荷電粒子の軌道に対する磁場の影響を抑える必要がある一方、高偏極の生成のためには高磁場が適している。従来設計の0.2Tに比べ2倍以上の高偏極が期待できる0.4Tの磁場を使用可能とするため、楕円形電磁石磁極、及びマイクロ波共振器を設計した。3.本研究課題のための陽子-炭素9共鳴散乱テスト実験(平成27年度に遂行)の解析を進めた。データ解析においては、標的中の炭素との反応、停止した炭素9の崩壊、非弾性散乱、等からの背景事象を詳細に評価し分離することで、励起関数を導出した。さらにR行列解析を通じて、非束縛核である窒素10の質量の値に関する重要な結果を得た。4.理研RIBFのSAMURAIスペクトロメータを軸としたコラボレーションの国際ワークショップを九州大学で開催した(国内外13機関から34名が参加)。運営を行うと共に、1.陽子-ヘリウム6弾性散乱実験に関する報告をした。
2: おおむね順調に進展している
28年度には、(1)偏極陽子-6He弾性散乱実験の遂行、及び(2)偏極生成システムの構築を計画した。前者に関しては、理化学研究所RIビームファクトリーにおいてビームタイムを獲得し、本課題での標的開発を受け、計画通り遂行できた。後者に関しては、従来の設計磁場(0.2T)と比べ高磁場化することで、2倍以上の偏極度の向上を見込めることが明らかとなり、最終的な性能の向上のため28年度は主に装置設計を行った。このように当初の計画を一部変更し、次年度に繰り越した。一方、29年度に予定していた研究内容の一部を28年度に遂行した。一つは新波長レーザーの導入による偏極生成効率の向上である。研究実績の概要(2-a)に詳しく記した通り、556nmレーザーを標的システムに導入することで、実際に性能の向上に成功した。もう一つは偏極陽子-6He弾性散乱実験の解析である。28年度前半に実験を遂行できたため、データ解析を計画より早く進めている。以上のように、一部の計画を次年度に繰り越す代わりに、別の計画を前倒しで遂行した。全体的には概ね順調に進捗している。
平成29年度には、1.偏極生成システムの構築、2.陽子-炭素9共鳴散乱実験の結果発表、3.陽子-ヘリウム6散乱実験のデータ/理論解析・結果発表、を行う。1に関しては、高磁場化のための楕円形電磁石磁極の作成、マイクロ波共振器(キャビティ型)、温度制御システムの開発、及び偏極生成テストを予定している。2に関しては、R行列解析を進め、陽子過剰非束縛核である窒素10の基底状態及び低励起状態のエネルギーやスピン・パリティに関する情報を抽出し、投稿論文にまとめて発表する。3に関しては、背景事象を注意深く除去した後にスピン非対称を導出し、光学模型解析を通じて陽子-ヘリウム6間のスピン軌道ポテンシャルに関する情報(深さや広がりなど)を抽出し、結果をまとめて発表する。平成30年度には、低エネルギー用偏極陽子固体標的を用いて理化学研究所RIPSビームラインにおいて、偏極陽子-炭素9共鳴散乱実験を遂行し、結果をまとめて発表する。
研究実績の概要(2-b)に記した通り、ビーム進行方向の磁場領域を短縮することで、2倍以上の高磁場化を果たせる可能性が見出された。従って、従来の設計を大幅に改良すると共に、製作期間を要する磁極と合わせて、新標的システムの部品を次年度に発注することとした。2年分の助成金を合わせて最適な構成の装置(マイクロ波系、磁場印加系、レーザー系)を構築することで、最大限の装置の性能(偏極度)を実現できると期待される。特に磁極に関しては、製作期間の長さから28年度の製作は実現できなかったため、29年度に他の装置と合わせて購入する。
購入予定の装置の中で、最も高価なものはマイクロ波アンプであり、最も長い製作期間を要するものは電磁石の磁極である。マイクロ波アンプとしては、高出力な物ほど高い性能を得られるため、アンプ以外の物品(電磁石磁極、マイクロ波共振器、レーザー系関連物品など)の価格が定まった後、予算内で最大出力のマイクロ波アンプを購入する計画である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 7件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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