研究課題/領域番号 |
16K05380
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
坂口 聡志 九州大学, 理学研究院, 助教 (70569566)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 不安定核 / スピン偏極 / 弾性散乱 / 共鳴散乱 / 偏極標的 |
研究実績の概要 |
1. 理化学研究所RIビームファクトリーにおいて平成28年度に取得した陽子-ヘリウム6弾性散乱の、微分散乱断面積のデータ解析を完了した。得られたデータは、既存のデータと比べて非常に高い運動量移行領域をカバーしており、原理的に原子核内部の密度分布を反映していると推察できる。相対論的インパルス近似を用いた理論解析を通じてヘリウム6核の内部に存在するコアの分布に関する情報を得ることに成功した。得られたコアの分布は、レーザー核分光による荷電分布半径の測定と誤差の範囲内で一致し、核の中心付近での中性子分布が陽子分布と似た形状、すなわちヘリウム4的なコアであることが示された。結果は投稿論文として受理された。さらに、偏極分解能のデータ解析もほぼ完了した。理論解釈の上、近日中に発表する。 2. 偏極陽子固体標的の開発を、九州大学伊都キャンパス加速器ビーム応用科学センターにおいて立ち上げた。偏極システムとしての基幹装置である電磁石及びレーザー、光学系回路部品などをKEK・理化学研究所・東北大CYRICから移設した。また、マイクロ波回路として最重要であるネットワークアナライザーを調達し、プロトタイプのマイクロ波回路(周波数:9.7GHz)の特性を評価した。さらに、レーザー光輸送系、及びNMR診断系を構築している。これらを通じて、九州大学における偏極標的の恒常的な開発環境が整備された。上記のインフラ的基幹装置群を活用し、平成30年度の開発及びタンデム加速器を用いたビーム照射試験へ発展させる。 3. 上記2点の内容に関して、国際会議SAMURAI International Collaboration Workshop 2017(ドイツ、ダルムシュタット)において成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度には、(1)陽子-ヘリウム6弾性散乱の微分散乱断面積に関する論文を責任著者として制作し、受理された。実験遂行の翌年度での論文受理は当該分野では比較的早く、データ解析や理論解釈が順調に進展したことを意味している。(2)また、国内各所において使用されていなかった基幹装置群を再利用することにより、九州大学に偏極陽子固体標的システムの開発環境を新たに整備し、従来は理化学研究所を舞台にして行っていた開発の軸足を九州大学へ移すことができた。これは、当初の計画を大きく上回る進捗と言える。(3)一方で、(1),(2)に重点を置いた反動として、今年度予定していた電磁石磁極の形状変更及びマイクロ波アンプの手配に関しては計画より遅れている。以上3点を勘案し、研究全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、九州大学における偏極陽子固体標的システムの本格稼働のため、電磁石系・NMR系・マイクロ波系の立ち上げ、及び0.4 Tという従来より高磁場におけるマイクロ波共振器の開発、楕円型電磁石磁極の製作、温度制御機構の開発、薄膜標的生成技術の開発などを行う。また、作成した標的試料に実際にタンデム加速器からのビーム照射を行い、九州大学で開発中のシリコン検出器システムと組み合わせて、共鳴散乱測定の試験を行う。さらに、理化学研究所で行った陽子-炭素9共鳴散乱測定の理論解析を進め、R行列解析に基づいて陽子過剰非束縛核である窒素10の基底状態及び低励起状態のエネルギーやスピン・パリティに関する情報を抽出し、結果を投稿論文として発表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況(3)に記した通り、平成29年度は、九州大学における偏極陽子固体標的の開発環境の構築に研究の重点を置いた。このため、マイクロ波アンプなど、環境構築及び仕様決定後に購入する物は平成30年度に繰り越しとなった。マイクロ波アンプの仕様は決定したが、納期が3ヶ月と長期間を要するため、平成30年度に購入することとした。
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