最終年度にあたる平成31年度は、九州大学加速器・ビーム応用科学センターにおいて、これまでに構築したサブシステム(レーザー系、マイクロ波系、電磁石及びNMR系、磁場掃引系)を組み合わせ、室温超偏極陽子固体標的システムを構築した。特に、サブシステムの中で唯一未整備であった、得られた陽子の偏極信号(自由誘導減衰信号)を検出するための核磁気共鳴(NMR)系の整備に注力した。NMR系の構築のため、東京大学原子核科学研究センターよりRFアンプなどの関連装置を移設し、九州大学における偏極標的システムに組み込んだ。組み込みに際しては、ファンクションジェネレータを2台同期させ、移設したRFアンプに対するトリガー信号及びゲート信号回路を構築した。また、複数の可変コンデンサを用いたチューナー回路、及びNMRコイルの製作を行った。コイルホルダーの製作には3Dプリンターを活用した。デュプレクサーを導入してNMR回路を組み、8.4 MHzのRF波に対する回路のマッチングを取った。さらに、振幅の小さな信号を捉えるため、ノイズレベルを十分に低減させた。これらの準備を終えた後、硫酸銅を混入させた水試料に0.2 Tの静磁場を印加し、陽子スピンの自由誘導減衰信号の検知を試行したところ、減衰時定数200 マイクロ秒程度の信号を観測することに成功した。研究期間中には標的に対するビーム照射試験及び偏極度の絶対値測定までには至らなかったものの、全てのサブシステムを立ち上げ各々の正常な動作を確認し、九州大学における室温超偏極陽子固体標的の開発拠点を構築した。
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