研究課題/領域番号 |
16K05381
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
西嶋 恭司 東海大学, 理学部, 教授 (40202238)
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研究分担者 |
櫛田 淳子 東海大学, 理学部, 准教授 (80366020)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ガンマ線 / 電波銀河 / M87 / 活動銀河核 / MAGIC |
研究実績の概要 |
スペインのラ・パルマにあるMAGIC望遠鏡を用いて,2017年1月1日~2017年6月25日の期間に,電波銀河M87をモニター観測した.総観測夜数は60夜,観測時間は約82時間であった.月明の影響がなく,天頂角が35度以下のデータの質のよい観測ライブタイムは約42時間であった.解析の結果,M 87方向から154イベントのガンマ線信号を,有意度5.4σレベルで検出することができた.それより計算した微分フラックスは,0.44 TeVで(3.21±0.66)×10^-12 cm^-1 sec^-1 TeV^-1で,過去の静穏期に観測されたフラックスレベルと一致している. 日毎のフラックスを計算し,ライトカーブを描いた.統計が足りず上限値が得られただけの日が多いが,有意にフラックスが変動をしていることは確認できなかった.また,残念ながら特にフレアーアップした日もなかった. スペクトラルエネルギー分布は,データポイントが少ないが,過去の静穏期に観測された冪指数-2.2の冪函数で矛盾なくフィットできた. 月明下での観測データを有効に利用するため,かに星雲の観測データを用いて,夜光が多い場合の解析方法の最適化を行い,その結果をM 87の観測データにも適用した.月の無い夜に比べて夜光量が2~3倍の場合と3~5倍の場合に分けて解析した.その結果,それぞれのライブタイムは5.6時間と6.6時間で,いずれも有意なガンマ線信号は検出できなかった.これは,観測時間が短かったうえに,エネルギーしきい値が上がり統計量が少なかったこと,系統誤差が月がない場合に比べて10%程度大きいことを考慮すれば,全く矛盾のない結果であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,電波銀河M 87のモニター観測はほぼ予定どうりで,ライブタイムで50時間以上の観測を行うことができた.解析も順調に進んでおり,今のところ予期しないトラブルには遭遇していない.しいて言えば,突発的なフレアーや,有意な比較的長い時間スケールのフラックス変動が観測されていない点が残念である.また,月明下での観測データが10時間以上含まれており,その解析手法の改良に結構な時間を費やした.その成果として,月明の無い夜の観測データと比べて,解析の系統誤差を10 %以内に抑えることができ,改良はうまくいったと考えている.一方,静穏期のライトカーブを有意に求めるためには,統計量を増やすために解析のエネルギーしきい値をもっと下げる必要がある.この点についても,実際に低エネルギーに最適化した解析を行なっており,予備的な結果として42時間の観測(ライブタイム)で2.9σのガンマ線信号を得ている.解析結果の系統誤差の推定とその低減,GeVガンマ線観測データの解析及び多波長の観測結果との比較などやり残していることはまだまだあるが,研究は概ね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
M 87のモニター観測とデータ解析は順調である.残念ながら期待していたフラックスの時間変動は300 GeV以上のエネルギー領域で観測されていないが,今後は,解析のエネルギーしきい値を下げることにより統計誤差を小さくすることで,フラックス変動の有無が見えてくることが期待できる.また,月光下での観測データの解析にめどがついたので,月夜も含めたモニターを続けて行くことで,データを集積してゆく.それにより,突発的なフレアーを検出することができる可能性が高まる.また,統計量が増えることにより有意なスペクトラルエネルギー分布を求めることが可能になる.もしフレアーが検出できれば,多波長によるフラックスの時間変動の相関とVLBIイメージとの比較を試みたい.たとえフレアーが起こらなくても,静穏期の長期変動の有無と電波領域の周波数ごとの強度及びその変動とを比較することにより,M 87における放射モデルについて知見が得られると期待している.今後は,M87以外の電波銀河,具体的にはNGC 1257,IC 310の観測と解析も進める予定である.GeVガンマ線のデータ解析を進め,これらの観測・解析結果を他波長のデータ,特にVERA等のVLBI電波イメージとの比較を行なうことにより,電波銀河に普遍的な高エネルギー放射機構の解明につなげたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表のための国際会議出席を予定していたが,学内業務のため取りやめたことによる.次年度は国際会議で成果を発表する等のために複数回の渡航予定があるのでそれに使用する.
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