研究実績の概要 |
国際宇宙ステーションの「きぼう」曝露部に設置された宇宙線観測装置CALETのデータを解析し、天体ガンマ線を荷電粒子事象から選別し、そのエネルギーや方向を再構成して、銀河中心方向などからの暗黒物質の信号、特に重い(数百GeV~数TeV)未知粒子(Weakly Interacting Massive Particles, WIMPs)の対消滅から生じる特徴的な信号を探索し、暗黒物質の正体の解明を目指している。分厚いカロリメータを有するCALETは、高エネルギーガンマ線に対し高いエネルギー分解能を有する点を活用することができる。 本年度は、早稲田大学やルイジアナ州立大学、NASAゴダードの共同研究者とともに、CALETカロリメータの観測データを用いたガンマ線の解析方法をさらに改良し、国際宇宙ステーションの可動構造物による二次ガンマ線の影響を取り除き、有効観測面積を大幅に増やした上で、2020年9月までのデータを調べた。こうして、ガンマ線に対する統計量を、これまで国際会議で報告していた数の約4倍にすることができた。ガンマ線観測衛星Fermi-LATよりも高いCALETのエネルギー分解能を活かした解析として、この観測結果を用い、暗黒物質対消滅から期待されるラインガンマ線信号の探索を進めており、質量が10 GeVから500 GeVの範囲の暗黒物質由来の信号の上限値を与える予備的な結果を、2021年夏の宇宙線国際会議で報告できる見込みであり、学術誌でも公表する予定である。 また、CALETの観測により、宇宙線炭素と酸素の10 GeV/nから2.2 TeV/nまでのエネルギースペクトルの測定結果を報告した論文に貢献した。この二つの原子核のエネルギースペクトルは同様の形を示し、200 GeV/n付近でべき乗則の硬化を示している。
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