研究課題/領域番号 |
16K05383
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
永井 泰樹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 研究員(任非) (80028240)
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研究分担者 |
藤田 博喜 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, バックエンド研究開発部門 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部, 研究副主幹 (20446446)
塚田 和明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究主幹 (30343916)
橋本 和幸 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (80414530)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 加速器中性子 / テクネチウム99m / モリブデナム99 / 核医学診断 / 熱分離 / 比放射能 / ミルキング / 放射性医薬品 |
研究実績の概要 |
99mTc(半減期=6時間)で標識した99mTc放射性医薬品は、がん、心臓疾患、脳疾患の三大生活習慣病等についての核医学診断で世界中で多用されている。我が国では、年間約90万件の診断に使用されているが、この99mTcは、99Mo(半減期=66時間)のベータ崩壊で自然に得られる。我が国は、海外の研究用原子炉で製造される99Moを毎週数回輸入し、99mTc医薬品を合成し利用している。そのため、99Moの安定供給は、核医学診断に不可欠である。しかし、高齢化した原子炉の計画外停止が頻発し99Moの供給が、世界的に不安定で医療現場は混乱している。我々は、99Moの国内製造によりその安定供給に資するべく、加速器で得られる中性子を用い99Moを製造する方法を提案し、既存の加速器を用い99Mo生成と高品質の99mTcを分離・精製する研究開発を行ってきている。今年度は、上記方法で得られる99mTcを用いた医薬品が、市販のものと同等の品質を持つことを検証することを目指した。実際、得られた99mTcを用い、骨シンチ、脳血流、心筋血流、腎臓機能診断用に重用されている99mTc医薬品を合成し、それらの品質が市販のものと同品質であることを実証した。また、本製造法の実用化に向けては、本製造法が経済的に持続可能な方法であることを検証することも重要である。そこで、100gのMoO3試料を用いて、99Moの製造量を測定した。その結果、40MeVの重陽子2mAを加速できる重陽子加速器を1台用いれば、日本の99Mo需要の30~50%を供給できることを明らかにできた。この製造量により、99Moの現状の価格、加速器の維持費などを勘案しても経済的に持続可能であることを示せたことになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) 加速器中性子を利用し製造した99Moは、原子炉でウランの核分裂で生成される99Moに比し比放射能が約1/5000と極めて低い。この99Moから高濃度・高品質の99mTcを得る分離精製法の確立は長年の課題であった。この課題克服のために我々は、熱分離装置を開発した。この装置で得られる99mTcの品質評価は、本製造法の実用化に向け鍵になる重要な要素であった。開発した熱分離装置は、高効率で99Moから99mTcを分離できること、得られた99mTcは不純物放射能をほとんど含まないことを実証してきた。今年度は、この99mTcを用い合成した99mTc医薬品は、市販中の99mTc医薬品と同等の品質を持つことを製剤メーカーの協力を得て実証でき、更に、原子炉でのウランを用いる製造法によらない99Moの代替製造法では重要な課題となるであろう試料中のMo同位体が、分離された99mTc中に医薬品として問題になる量含まれないことを検証できたことは、当初の計画以上の成果であった。また、 2) 加速器中性子を利用するという我が国独自の本製造法が、経済的に持続可能な方法であることを実証できたことは、99Moの供給不安定さの解消に向け、世界的に大きなインパクトがある。即ち、加速器を用い99Moを製造する方法として幾多の方法が世界中で提案されてきた。しかし、提案された方法の中で、最終的に得られた99mTc医薬品が既存の薬事を満たし、且つ経済的に持続可能な方法であることを実証したのは我々が初めてである。これは、本製造システムを今後、世界に展開していく上で意義深い事であり当初の予想を超える結果である。
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今後の研究の推進方策 |
我々の最終目標は、99Moの供給不安定性を信頼性の高い方法で安定に99Moを製造し供給できる施設を実現することにある。これまで、加速器中性子による99Mo製造量、製造された99Moから高効率で高品質の99mTcを分離精製することを実現し、得られた99mTcを用い合成した99mTc医薬品が市販の99mTcによる医薬品と同等の品質を持つことを実証してきた。今後は、より高強度の99Moから99mTcを分離するべく熱分離装置の自動化の開発につとめる。また、加速器中性子による医療用RI製造法が経済的に持続可能な製造法であることをより堅固なものにすべく、64Cuや67Cu等の治療用RIの研究開発に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
99Moから99mTcを分離精製するための熱分離装置の自動化は不可欠である。自動化を経費内で安全性を最優先に設計する上で、材質の選択などで予想以上の時間を要した。更に、治療診断用のRIとして64Cuや67Cu等を陽子を用いて発生させうる可能性が予備実験の成果として得られた。そこで加速器中性子を用い製造する方法を新たに開発することにしたが、中性子生成用標的部の設計に予想以上に時間がかかったた。以上の経緯があり次年度使用額が生じました。
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