研究課題/領域番号 |
16K05385
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山本 将博 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (00377962)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高電圧 / 真空絶縁 / 電子刺激脱離 / 電子源 / 超高真空 |
研究実績の概要 |
高真空による高電圧絶縁は加速器や電子顕微鏡など荷電粒子ビームの発生や加速、静電レンズなどビームを制御する機器で広く利用されており、その絶縁性能の向上は機器の小型化や高性能化に直結する。本研究では、高真空中の直流電界での電極間放電に関わると推測される「陽極上で発生する電子刺激によるイオン脱離」に着目し、それを検証するため、我々の500kV電子銃の高電圧コンディショニングで得られた結果を考察し、次の4点の重要な事実を発見した。(1)放電が停止する電圧(放電停止電圧)が存在する。(2)コンディショニングによって放電停止電圧は連続的に上昇する。(3)放電停止電圧以下の状態では放電が長期的に発生しない。(4)放電開始電圧と放電停止電圧の差と、放電によるガス放出量には比例関係がある。この事実は、電子刺激脱離が放電と密接に関係するモデルとすべて矛盾なく合致することから、その結果をまとめAPLにて論文発表を行った。また、より詳細な報告を日本加速器学会で発表を行った。 推測した電子刺激脱離によるイオン脱離が放電と密接に関係するモデルが無矛盾であることが示された一方で、このモデルの中で放電を決定付ける電子刺激によって発生するイオンの生成効率、およびイオン刺激によって発生する2次電子の生成効率については上記の実験結果の解析でも不明瞭であり、定量的なデータもほとんど無い。これらの基礎的な定量分析を行うための装置設計を行い、装置製作に必要となる材料の購入等の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の研究実績の概要の表記にあるように、500kV電子銃のコンディショニング結果の分析から超高真空中における放電現象に電子刺激脱離現象が深く関係していることを実験的に証明できる結果を得ることができたことは、申請時には予想できなかったが決定的な進展であった。 放電を決定付ける電子刺激によって発生するイオンの生成効率、およびイオン刺激によって発生する2次電子の生成効率についての定量的なデータを得るための装置設計はほぼ完了し、今年度より予定通り装置の組み立てを開始する。
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今後の研究の推進方策 |
装置を組み上げ電子刺激によって発生するイオンの生成効率の定量的な分析準備を開始する。 最初に立ち上げた装置の基礎的な挙動を確認するため、熱電子源を利用した5keV程度までの低エネルギー電子照射による実験を計画している。電子刺激脱離によって発生するイオンの定量分析については当初は質量分析器を利用する予定であったが、より直接的に発生したイオンを測定するために電子増倍素子(MCP)を利用する方針を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に重要な発見があり、2016年度前期にそれらに関する論文発表および学会発表2件を行ったため、当初予定していなかった旅費および論文出版費用がかかり、2016年度に購入を予定していた質量分析器の購入費用が不足した。 装置の詳細設計を進め、必要な部材の購入を進めながら2017年度に質量分析器の購入を検討していた。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度後期の装置詳細設計の段階において、質量分析器よりもより直接的にデータを取得できる可能性がある電子増倍素子を利用する方針へ変更し、2017年度に素子の購入を行い装置への組み込みおよび立上げを予定している。
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