研究実績の概要 |
真空放電現象の一つの要因として、陽極側で発生する電子刺激脱離による放出ガスが一定の割合でイオンとして放出される現象が深く関わっている可能性を提唱した。このモデルに基づけば、電子刺激脱離で発生するガスとそれに伴う脱離イオンは、放電を繰り返すことで徐々に減少し、放電電圧はそれに伴って徐々に上昇する。実際に、加速器用電子銃を用いた高電圧試験において実験的にそのモデルに矛盾がないことを示し、Appl. Phys. Lett. 109, 014103 (2016)およびPhys. Rev. Accel. Beams 22, 053402 (2019)で論文発表を行った。 電子刺激脱離で放出されるガスと脱離イオンの比を定量的に測定することは、上記の放電モデルの定量的な分析と評価ができる他、そこから得られる結果として電子刺激脱離および脱離イオンを抑制できる表面を実際の高電圧装置の電極表面へ応用することで、コンパクトで放電が発生しにくい機器の開発につながる可能性を秘めている。この分析・評価装置を電界シミュレーションおよび荷電粒子トラッキングシミュレーションを用いて設計し、電子刺激脱離で発生する100eV以下相当の脱離イオンを9割相当検出できる電極、検出器の設計および配置を決定した。試験電極へ電子照射を行うための電子線発生、制御装置の部分は整備できない状況で残っているものの、検出器周りの準備ができた。 また、電子刺激脱離の抑制は放電電圧の向上に寄与する可能性が高いため、放電用試験電極(特に陽極)表面に電子刺激脱離抑制に効果的なコーティングを行うための装置を製作し、今後の実験準備を進めた。
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