研究課題/領域番号 |
16K05386
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
近藤 敬比古 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (30150006)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子実験測定器 / シリコン半導体検出器 / 放射線損傷 |
研究実績の概要 |
スイスのCERN研究所では、LHC加速器を使って陽子を世界最高のエネルギー7.5兆電子ボルトまで加速し衝突させる。陽子・陽子衝突現象の中から新粒子や新現象を観測する実験を、2つの国際共同チームが2010年より行ってきている。2012年にはヒッグス粒子が発見された。日本が参加しているアトラス実験の中心部分に設置された4000台を越えるストリップ型シリコン飛跡検出器は、2017年現在も98.7%が順調に稼働して荷電二次粒子の飛跡再構成において中心的な役割を果たしている。 これらのシリコン検出器は、多量に発生する放射線のため徐々に検出性能が変わる。この放射線損傷の進行具合を逐次モニターし、検出器の状態とその運転を最適化することがこの基盤研究の目標である。 1年目では、検出器のリーク電流の経年変化を調べた結果、放射線損傷はほぼ予想どおりに進行していることがわかった。またシリコン飛跡検出器モジュールの各々の雑音と利得(ゲイン)の経年変化を調べ、ほぼ安定していることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年に引き続き2017年もLHC加速器の運転が順調で、陽子・陽子衝突のルミノシティ(衝突頻度)も予想以上に伸びた。その結果シリコン飛跡検出器の放射線損傷もかなり進行した。 リーク電流の増加は引き続き観測され、その増加傾向は2つのリーク電流モデルと誤差範囲内でよく一致することが分かった。 陽子・陽子衝突現象の実験中にシリコン飛跡検出器の一部のバイアス電圧を変更することにより、検出効率の電圧依存性を調べた。検出効率の計算は、再構成された荷電粒子の飛跡を使う必要があるため、スペインの研究所に所属するポスドクを指導して行った。その結果、ビーム軸から30cmに位置する最内層では、(シリコン結晶がN型からP型に変わるタイプ変換が、2017年中に起こっている証拠を捕らえることができた。検出効率の電圧依存曲線は、現在使っている簡素シミュレーションとは合わないことも判明した。
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今後の研究の推進方策 |
放射線損傷によるリーク電流とそのアニーリング(緩和)は検出器の温度に強く依存する。そのため、リーク電流の経年変化を予想と比較するためには、長年に亘ってのセンサー温度の歴史を知る必要がある。温度センサーは検出器に付着されてないので、すぐ傍の電子回路上の温度センサーから類推する。中央部分の検出器モジュール(約2100台)では、その類推は比較的容易なので、予想と比較が可能であった。しかし前後方に位置するエンドキャップ型モジュールでは同様の温度類推法では矛盾のある結果が出てしまった。今後、他の方法で温度を推定する方法を開発する。それが成功すれば、中央部と端部の放射線損傷の違いを比較すること可能になり、さらに実験装置全体を入れた放射能レベルのシミュレーションとの整合性を見ることができる。 並行して、シリコン検出器内の電子と空孔の移動を考慮に入れた基礎的なシミュレーションモデルを構築し、2017年に得たタイプ変換を示す検出効率の電圧依存曲線がシミュレーションで再現できるか試みる。それが成功すれば、検出効率の電圧依存データから全空乏電圧を定量的に抽出できる。全空乏電圧がわかれば2024年まで予定されているシリコン飛跡検出器システムの寿命や最適運転条件を予想することができる。
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