研究課題/領域番号 |
16K05391
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴浦 秀勝 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10282683)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 励起子 / 遮蔽効果 / 誘電関数 |
研究実績の概要 |
遷移金属カルコゲナイド層状物質における励起子束縛エネルギーに対する環境効果に対する計算を実行した.室温の熱エネルギーより巨大な束縛エネルギーを持つのは,電気力線が層状物質の外部を通過し,電子・正孔間相互作用が遮蔽されにくいことに起因すると考えられる.そこで,有機溶媒などの誘電率が大きな物質が環境として存在すると,遮蔽効果により相互作用が抑制され,励起子吸収エネルギーが変化し,光学応答に大きな変調が得られると期待して実験がなされたが,小さな変化しか得られなかった. 本研究では,前年度までに開発した,動的遮蔽効果を取り入れた誘電関数を取り込んだ励起子吸収スペクトルを計算する手法を適用し,有機溶媒等を想定した,環境物質の誘電性による励起子吸収スペクトルの変調を理論的に明らかにした.結論としては,一般的な有機溶媒に囲まれた環境に遷移金属カルコゲナイド層状物質を置いても,励起子束縛エネルギーはほとんど変化しない. 有機溶媒の誘電性を支配するのは極性分子による配向分極である.確かに,アルコールの比誘電率は30にもなり得るが,この値は静電場に対する静的誘電率であり,分子の回転準位エネルギーより高周波数領域では誘電率の値は強く抑制される.誘電率が周波数に依存した動的遮蔽効果を考慮すると,励起子束縛エネルギーに対応する周波数における誘電率が重要であり,巨大な束縛エネルギーを持つ物質では,配向分極による遮蔽の影響は殆どないことを明らかにした. ただし,吸収スペクトルを議論するには,バンド間遷移への遮蔽効果を考慮する必要があり,束縛エネルギーとバンドギャップエネルギーの双方が抑制され,結果として,励起子吸収ピークの変化が小さいとの解釈も可能である.しかし,実験的にバンド間遷移のエネルギーを特定できれば,遮蔽効果の大小を決定することが可能である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに確立した,動的遮蔽効果を取り入れた励起子吸収スペクトルを理論的に計算する手法により,誘電環境の変化による遮蔽効果の議論を可能とした.近年,誘電環境の変化による光学応答の変調が注目されており,有機溶媒による環境効果効果の実験結果に対する理論的解釈を与え,動的遮蔽効果のメカニズムから,より一般的な誘電環境の影響も明らかにするなど,順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
励起子束縛エネルギーを決定するには,励起子吸収ピークとバンド間遷移吸収の両方の情報が必要であるが,実験的には,非常に強い励起子吸収ピークが観測されるのに対し,バンド間遷移の吸収端は不明瞭である事が多い.その原因を解明するため,本研究では,結晶の乱れの効果を考慮した吸収スペクトルを計算し,実験結果の再現を試みる.さらに,乱れがある場合の遮蔽効果を明らかにし,誘電率変化による光学応答変調の実現可能性について定量的評価を行う.
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