遷移金属カルコゲナイド層状物質の励起子光学応答における相互作用効果の理論的解明に取り組んだ.一番大きな進展として,励起子束縛エネルギーに対する動的遮蔽効果を定量的に評価する方法を確立したことがあげられる.層状物質を誘電体で挟み環境誘電率を変化させ相互作用を変調することにより共鳴エネルギーの制御が可能になると期待される.有機溶媒など巨大な静的誘電率を示す物質により電子・正孔間相互作用を遮蔽し励起子束縛エネルギーを縮小する提案がなされていたが,動的遮蔽効果を考慮すると有機溶媒のような配向分極を起源とした遮蔽効果は巨大な束縛エネルギーを持つ物質系では無視できることを明らかにした. 相互作用遮蔽を微視的に記述する模型として格子振動による遮蔽に着目し.励起子吸収スペクトルに対する電子・格子相互作用効果を明らかにした,格子振動が励起子束縛エネルギーを縮小するだけでなく電子との散乱によりバンドギャップを変化させることが重要で,励起子共鳴エネルギー変化に対する大きさは後者のほうが大きいことを明らかにした. 動的遮蔽の考察から励起子共鳴エネルギーの制御は半導体基板物質を置き換えることで実現可能であることになる.基板物質による遮蔽は電子・正孔間相互作用のみならず,電子間相互作用に起因した自己エネルギーを抑制する.つまり,励起子束縛エネルギーの減少と自己エネルギーの抑制によるバンドギャップの縮小が競合する.自己エネルギーをハートリー・フォック近似で計算した範囲では,基板誘電率を増大させると励起子共鳴エネルギーは低エネルギー側にシフトすることを示した. 光学素子への応用を念頭に,非線形光学効果として2光子吸収に着目し,励起子効果により増強されることを明らかにした.巨大な束縛エネルギーを持つ遷移金属ダイカルコゲナイド物質では非線形光学効果も大きく増強されると期待される.
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