研究課題/領域番号 |
16K05395
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
並河 一道 東京学芸大学, 教育学部, 名誉教授 (10090515)
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研究分担者 |
大和田 謙二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (60343935)
石野 雅彦 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 主幹研究員(定常) (80360410)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分極ドメイン / 緩和時間 / スペックル / 強度相関 / ドメイン壁の振動 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
スペックル強度の時間相関測定を行うに先だってスペックル像の観察を行った。スペックル像の観察は、相転移温度の20K高温側から2Kずつ試料温度を降下し、試料をその温度に5分間程度保持した後に行った。観察に用いた軟X線光源は、数ピコ秒のパルス幅をもつシングルショットパルスレーザーであって、分極ドメインの形や大きさを数ピコ秒の間に瞬間的に観察することができる。観察された分極ドメインは、観察するタイミングでまったく異なる形態を示すことが分かった。相転移温度近くでは分極ドメインのゆらぎは極めて激しく、数ピコ秒で瞬間的に観察した結果、数十ピコ秒より長い時間スケールでゆらぐ分極ドメイン全体にわたる変動が確認できた。その結果、さまざまな時間スケールでゆらぐ誘電体の分極ドメインの極めて短い時間スケールに関する変動の様子を知ることができた。 ストライプドメインの成長する407Kから388Kの間でスペックル強度の時間相関測定を試みた。ストライプドメインが明瞭に現れる場合にはスペックル像が単純で、強度の時間相関を容易に求められるが、ストライプドメインが明瞭に現れない場合にはスペックル像が複雑で、強度の時間相関を求めることに困難がともなうことが分かった。いくつかの試料温度においてスペックルの強度相関を試行的に測定することができ、ストライプドメインが出現し始める403Kで測定した強度相関からえられた緩和時間はおよそ数十ピコ秒となることが分かった、この値は分極ドメインの分極の個別的ゆらぎの緩和時間より十分長く、ドメイン壁に一様なゆらぎの存在がうかがえるものである。この結果から、自己組織化によるストライプ分極ドメインの成長のメカニズムをドメイン壁のゆらぎの緩和時間の温度変化から明らかにできる見通しがえられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、分極ストライプドメインのドメイン壁のゆらぎと自己組織化によるドメイン構造の成長との関係を明らかにするため、分極ストライプドメインのスペックルの強度相関を試料温度を変えて系統的に測定する予定であった。いくつかの温度においてスペックルの強度相関を試行的に測定し、ストライプドメイン構造の成長する温度領域でドメイン壁のゆらぎの緩和時間が長くなる傾向を示すことが確認できたが、残念なことに、緩和時間の系統的変化を突き止めるまでには至っていない。 一方、ドメイン壁対の反対称モードの一様なゆらぎの存在が、PT濃度28%付近に突然あらわれる誘電率のピークの要因であることを確かめるために遂行する予定であった高い周波数における誘電応答の測定は、系統的強度相関の結果が出ていないため周波数領域が特定できず、測定の準備はまだ進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、ストライプ分極ドメインの生成・成長には、試料温度の熱平衡の存在が本質的に関係していることが分かった。ゆらぎの激しい相転移温度の直下において熱平衡を持続しながら試料温度を降下した場合、分極ドメイン全体にわたる乱雑なゆらぎが抑制されて、ドメイン壁の一様な集団的ゆらぎが実現されるものと考えられる。スペックルの観察からドメイン壁の集団的ゆらぎがストライプ分極ドメインの生成の要であるとの感触をえている。 平成29年度には、このドメイン壁の集団的ゆらぎの緩和時間の消長とストライプ分極ドメインの成長との関係を明らかににするため、十分に温度平衡を維持しながら試料温度をゆっくり降下し、ストライプドメインが明瞭に現れる状態を実現して、スペックル強度の時間相関測定を行うことにしたい。 ストライプドメインが成長し始める403Kにおいてえられた数十ピコ秒の緩和時間は、ストライプ分極ドメインの成長が著しく進む398Kから388Kの温度領域においては、さらに長くなることが予見される。平成29年度には、この温度領域で、熱平衡を実現した上で強度相関を測定して緩和時間の温度依存性を調べて、ドメイン壁のゆらぎと分極ドメインの自己組織化との関係を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月後半から3月初頭にかけて量研機構関西光科学研究所へ実験観察のために出張した際、当初奈良市内のホテルを利用する予定であったが、宿泊場所として研究所内の交流棟を利用したため宿泊料が安くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に光学部品の購入に充てる。
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