研究課題/領域番号 |
16K05396
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
萱沼 洋輔 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (80124569)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | コヒーレント制御 / 位相ロック2連パルス / 電子位相干渉 / 量子遷移経路干渉 / 電子フォノン結合系 |
研究実績の概要 |
二つの研究目的のうち、「位相ロック2連パルスを用いた電子・フォノン結合系のコヒーレント制御理論」に関して、実験、理論ともに急進展があったので、今期はその問題に主力を注いだ。。 実験的には、GaAs結晶で温度制御し、複数波長で位相ロックポンプ・プローブ測定が行われた。その結果を解析するために、2準位モデルより現実的な2バンドモデルでの定式化を行った。計算により得られた電子干渉フリンジを測定データと比較した結果、次のような新たな知見が得られた。①バンド端の近傍では、LOフォノン生成にはISRS(瞬間的誘導ラマン散乱)が支配的。一方、②LOフォノンプラズモン結合モード生成ではIA(瞬間的光吸収)が支配的である。また、③位相緩和にはバンド間励起に起因する不均一広がりの効果が支配的だが、動的な位相緩和も遅延時間の大きい領域で無視できない。①と②は、長年議論の続いていたコヒーレントフォノン生成機構の解明に寄与するものである。①の知見は、電子のフリンジに見かけのdephasing(位相緩和)とrephasing(位相再生)現象が実験で見られたことに基づく。これは複数の量子遷移経路間の干渉に起因することが理論モデルから明らかになった。 また、Egモードなど対称性の低いコヒーレントフォノンの生成機構に関して、動的ヤーンテラー相互作用に基づく理論模型を提案した。従来、フォノン生成強度のポンプ光偏光への依存性がラマン散乱強度のそれと一致することを理由に、非対称モードの生成はISRS機構だとする議論があったが、ISRSとIAは同じ偏光依存性を示し、このことだけでは不透明域励起の場合の生成機構について決め手とならない。このモデルに基づき、全対称モードも含めて、不透明領域ポンプによる生成確率の定式化を行い、実験の解析をした。これらの成果は論文、国内学会、国際会議などの研究集会で発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の進展に伴い、理論モデルの改良を行った結果、「量子遷移経路干渉」という予想外の現象を発見した。これは電子干渉フリンジとフォノン干渉フリンジとの間で、さらに干渉効果が起きる現象である。その結果、電子干渉フリンジに異常なシグナル(dephasingとrephasing)が現れる。GaAsという比較的単純と思われていた系においても、電子・フォノン結合系であることから、このような複雑な現象が観測されるのである。 実験上の制御可能パラメータとして「温度」「励起波長」「パルス幅」「結晶のタイプ(n型かi型か)」などに依存して、常に新展開が見られそれに伴い理論的な理解も深まりつつある。たとえば、初期にはほぼ同じメカニズムが働いていると思われていたLOフォノン生成とLOフォノンプラズモン結合モード生成では大きく異なっているらしいことが明らかになっている。すなわちLOフォノンは基底状態で生成され、LOフォノンプラズモン結合モードは励起状態で生成されていると解釈される。 これらの成果は、国際会議や国内学会では公表済みであるが、研究の進展に比較して、論文発表が追い付いていないことが反省点であり、早期に解決する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
「位相ロック2連パルスを用いた電子・フォノン結合系のコヒーレント制御理論」については、実験の進展に応じて理論モデルを拡充し、その都度、新たな局面を見出しているが、ある段階で整理して論文発表をしてゆく必要がある。現在、LOフォノン生成に限定し、最新の成果をとりあえず速報誌に発表する計画である。さらに、LOフォノンプラズモンの応答まで含めて、この物質の超高速光励起過程の全体像を2連パルス実験とその理論解析から解き明かしてゆく予定である。 「ギャップレスディラック電子系の非共鳴光照射によるバンド変調」については、ほぼ研究目的の計算を達成しており、国際会議などで発表をしているが上記テーマの新展開のために論文作成が遅れている。あわせて公表を急ぐ予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 当初計画では、数値計算用にワークステーションを新たに購入する予定であったが、数値計算ソフトとしてマセマティカを導入した結果、手持ちのノートパソコンでも計算可能であることが判明したため、今期の購入を見合わせた。これにより予算の剰余が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
目的 数値計算の進展状況によっては、ワークステーションまたはノートパソコンを今期に購入する可能性がある。その他の使用目的は、研究成果発表のための国内国外学会参加旅費、論文投稿費用(投稿料、ネイティブによる閲読料金を含む)、各種消耗品費、関連書籍代などが主である。
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