研究課題/領域番号 |
16K05402
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
高橋 聡 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80212009)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子常誘電体 / 格子の量子揺らぎ / ソリトン / 電子型強誘電体 / 高速分極反転 |
研究実績の概要 |
DMTTF-QBrnCl4-nは、nの値に応じて電子型強誘電体から量子常誘電体への転移を示す。DMTTF-QBrnCl4-nを記述する電子―格子相互作用を取り入れた拡張ハバードモデルを用い、電子と格子の量子揺らぎを取り入れることが可能な量子モンテカルロ法を用いて、基底状態における、アクセプター分子からドナー分子への平均電荷移動量ρ、位相も含めたボンド長交替の大きさを示す格子オーダーパラメーターyの平均、およびその分布を計算し、量子常誘電体における電子相関や格子の量子揺らぎの効果を調べた。nが大きくなると最近接サイト間遷移積分の絶対値tが小さくなると考えられる。また、分子質量Mが小さくなると、格子の量子揺らぎの効果が大きくなる。そこで、tとMを変化させた場合の相図を作った。tを減少させると、電子型強誘電状態(ρ~1のイオン性状態であり、yの平均はゼロにならずボンド長交替が起きている)から、常誘電状態(ρ~0の中性状態であり、yの平均はほぼゼロでボンド長交替が起きていない)への転移がおきることが分かった。相転移点付近では、Mを減少させることにより電子型強誘電状態から常誘電状態への転移が起きることがわかった。このことは、相転移点付近の常誘電相は、格子の量子揺らぎによって安定化される量子常誘電状態であることを示している。さらに、量子常誘電相の格子オーダーパラメーターの分布から、ソリトン対の格子の量子揺らぎが量子常誘電相の安定化に重要な寄与をしていることも分かった。 電子型強誘電体TTF-CAにおいて、格子自由度を取り入れた拡張ハバードモデル用い、THz波パルスで基底状態を励起した場合の電子および格子のダイナミックスを、格子の時間発展は古典近似で、電子の時間発展は厳密に数値的に計算した。相転移付近では、格子運動により高速の分極反転が引き起こされることなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、今年度に行う課題は以下の2つである。1. TTF-CAなどの電子型強誘電体を記述する格子の運動も取り入れたモデルで、THz波パルスによって誘起されたダイナミックスを計算し、分極を反転させるための手法を考察する。2. 量子常誘電体DMTTF-QBR2Cl2における、光もしくはTHz波パルス誘起ダイナミックスを計算する有効モデルを開発する。 課題1に関しては、研究は終了しており、論文にまとめている段階である。課題2に関しては、量子常誘電体における格子の本質的な量子揺らぎを明らかにすることはできた。これに基づく有効モデルでの計算はまだ開始できていないが、今年度で得られた知見から、有効モデル構築の見通しを立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
量子常誘電体DMTTF-QBR2Cl2において、これまでの研究で明らかになった、ソリトン対による支配的な格子の量子揺らぎを生成座標による手法で取り入れた、この物質の有効モデルを開発する。このモデルを用いて、THz波パルス励起後の量子ダイナミックスを計算し、どのように格子の量子状態が変化し、量子揺らぎが抑制され強誘電分極が生成されるのか、その時間スケールは何で決まるのかを調べる。これらの結果から、この量子常誘電状態における格子揺らぎの役割を新しい視点から考察する。さらに、超高速反応、巨大な振幅のコヒーレントフォノン生成などの実験結果が説明できるか、これらの現象の起源は何かを明らかにする。さらに、古典格子によるTTF-CAでのダイナミックスとの比較を行い、この新しいタイプの光誘起相転移の量子相転移としての特徴を明らかにする。。
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