薄膜中の励起子分子が輻射崩壊したときの終状態には「励起子+光子」,「励起子+表面ポラリトン」,「光子+表面ポラリトン」,「表面ポラリトン+表面ポラリトン」の4種類がある.薄膜の膜厚を変えると表面ポラリトンの分散関係が変化するため,励起子分子から遷移する表面ポラリトンの状態密度とその励起子成分と光子成分も膜厚とともに変化し,表面ポラリトンを介した輻射寿命の膜厚依存性に影響を及ぼす.以上の影響を理論的に解析すると,励起子分子の輻射寿命の膜厚依存性は膜厚と共に増加から減少へと転じる.この特徴的な遷移確率の膜厚依存性は半導体CuCl薄膜中の励起子分子の輻射寿命の実験結果と定性的に一致する. バルクの極限では,励起子分子は励起子ポラリトンへと遷移して崩壊する.励起子ポラリトンへの遷移は薄膜における「励起子+光子」への遷移に相当するので,励起子ポラリトンと「励起子+光子」の関係を切れ目なくなめらかにつなげて考えるためには,「励起子+光子」の状態を薄膜の内外に広がる励起子-光結合状態(leaky mode)で考える必要があることに気がついた.励起子分子が崩壊して生じた励起子と光子がそれぞれ,「励起子→光子→励起子」と「光子→励起子→光子」へと再生成されないような薄い薄膜の場合,これまでの「励起子+光子」への輻射崩壊という考え方に問題はない.しかし,膜厚が大きくなり,これらの再生成が起こるようになれば励起子と光子の結合状態というポラリトン的な描像の方が適切になる.そこで,薄膜の厚さを変えたときにシームレスに励起子分子の輻射寿命が議論できるように,表面ポラリトンの状態を求めたのと同様な方法でleaky modeを計算し,励起子分子からの遷移確率の計算を試みた.計算の定式化までは終了したが,急峻なピークを持つ関数の多重積分の数値計算に時間がかかり,まだ数値的な結果は得られていない.
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