研究課題
今年度は、希土類低次元物質RNiC2において整合超格子構造の結晶構造と電子構造の研究を行った。RNiC2においては不整合超格子と整合超格子の二種類の変調構造が知られているが、これまで不整合超格子の研究が先行していた。抵抗測定や構造測定により、Rの軽希土類で出現する不整合超格子は電荷密度波(CDW)であることが確定していたが、Rの重希土類で観測される0.5 0.5 0.5 の整合超格子の成因はわかっていなかった。PFの放射光を使用してイメージングプレートを用いて低温でYNiC2において超格子による衛星反射を観測した。その結果、衛星反射は温度降下とともに順調に増加し、構造転移が二次的であることがわかった。数千の反射を用いて放射光構造解析を行い、0.5 0.5 0.5 の整合超格子の変調パターンを決定した。その結果、各原子の変位方向は不整合超格子の変位方向とほぼ同じであるが、変位量が2倍以上大きいことがわかった。超格子構造を含んだ電子構造計算では、フェルミ面上の状態密度は著しく減少しており、この整合超格子もCDWと見なせることがわかった。つまりRNiC2においては二種類のCDWが競合しており、半径の大きな軽希土類側では不整合CDW、半径の小さな重希土類側では整合CDWが優勢になることがわかった。さらに、RNiC2では磁気転移とCDWの相関が強いことをSmNiC2やGdNiC2でこれまでに明らかにしてきているが、他のRNiC2においても磁気転移温度以下で結晶構造が変化することが強く予期される。それを確かめるために、これまで最低到達温度が約5Kであった磁場中構造測定装置を冷却方法を改善し約2.5Kまでの冷却を新たに可能にした。10Tの励磁も可能であり、この系での今度の極低温構造物性や強磁場下構造物性測定に威力を発揮するものと思われる。この完成した装置を用いて今後研究を進めて行く。
2: おおむね順調に進展している
これまで未知であった希土類低次元物質RNiC2の整合超格子構造の詳細を放射光を用いて明らかにした。さらに自ら第一原理計算により電子構造まで計算を行い、整合超格子がCDWであることを明らかにした。これに加え、他に例のない2.5Kという極低温で10Tの磁場中構造測定装置を開発したことで、今後の本課題遂行において、当該物質の磁場中の構造物性、特に磁気秩序とCDWとの相関の研究が一段と進むと期待される。
良質なRNiC2作成のノウハウは蓄積されているので、今後も多くの希土類RNiC2について純良単結晶測定を行い、輸送測定や磁場中の構造物性の測定を行う。特に、成果が出たYNiC2は2つのCDWの温度変化の消長などを含めて、さらに詳しい解析を行う。これにくわえ、新たに完成した極低温強磁場構造測定装置をフル稼働する。2.5Kまで極低温化したことにより、ほとんどのRについてRKKY相互作用による磁気転移点より下まで冷却が可能になり、数多くの物質での磁気秩序と構造との関連が測定可能になった。このメリットを最大限に生かして、今後は、他のRNiC2や他種の希土類含有低次元物質のCDWと磁気秩序との相関を調べ、磁気秩序と構造との交差物性の理解につなげる。
完成した極低温強磁場構造測定装置は2.5Kまで冷却可能であるが、大量にヘリウムを消費する。その代金が必須になる。よって、この装置の完成まではできるだけ研究費を節約して、完成後に装置をフル駆動して、主としてヘリウム代にあてることを見込んでいるためである。
これまでの計画書に記入した試料作成用消耗品などに加え、液体窒素代、ヘリウム代を約90万円使用予定である。
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Physical Review B
巻: 95 ページ: 085103-1-5
DOI: 10.1103/PhysRevB.95.085103
巻: 93 ページ: 085109-1-5
DOI: 10.1103/PhysRevB.93.085109