研究実績の概要 |
本研究の目的は、脂質融液結晶化における前駆体形成の可能性と、その構造形成キネティクスを実験的に検証・解明することである。 試料には、分子間化合物を形成するトリアシルグリセロール分子(油脂分子)二元混合系(POP/PPO(1:1))を主として用い、その融液結晶化キネティクスを、初期の構造形成を中心に実験的に検証した。最終年度には、混合系の構成成分である各純物質系(racPPO, snOPP, POP)についても比較検証し、前駆体的構造を経た脂質分子間化合物の結晶成長キネティクスの解明を試みた。 分子間化合物の結晶化では、低過冷却度域(高温域)において、分子鎖の積層ラメラ構造に対してパッキング秩序が著しく乱れた準安定構造が初期に形成されるることや、ラセミ体を含んだ分子間化合物において成長後半におけるわずかな構造転移と形態変化の出現が明らかになった。 一方、高過冷却領域(低温域)における結晶化では、分子間化合物と純物質系のいずれにおいても、ごく初期に六方晶的に乱れた分子鎖パッキングの準安定多形(α相)が針状晶として多数急成長した後、より高秩序な準安定構造へゆっくりと多形転移するという共通したキネティクスを示すことが分かった。先行形成する針状α相では共通してラメラ積層周期が脂肪酸鎖2鎖長の周期構造である一方、後期における多形転移後の構造は分子間化合物と純物質系で大きく異なった。純物質系では2鎖長ラメラ周期から3鎖長周期に大きく変化しより高秩序な準安定構造へと転移したが、分子間化合物では2鎖長周期を維持したまま異なる多形構造へと転移していくことが分かった。純物質系では、ラメラ内での異種脂肪酸鎖の分離による安定化が勝り2鎖長から3鎖長構造への転移が進行するが、分子間化合物では3鎖長構造が不安定な分子構造となり、2鎖長構造を維持したまま分子鎖末端の最適化が進行すると結論付けられた。
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