研究課題/領域番号 |
16K05406
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
東 純平 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 准教授 (40372768)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 放射光 / 光触媒 / 二酸化チタン / 電子状態 |
研究実績の概要 |
昨年度から引き続き、光触媒として知られるアナターゼ型二酸化チタンTiO2について、昨年度と異なる面方位の表面を出して整形研磨された天然単結晶試料を購入し、それらの試料についてイオンスパッタと酸素雰囲気中でのアニールにより清浄表面を作製し、放射光を用いた角度分解光電子分光測定をおこなった。放射光のエネルギーを変化させて表面に垂直方向の波数を変えながら測定する三次元角度分解光電子分光によりTiO2(110)単結晶のΓ-M方向のバンド分散が新たに明らかになった。TiO2(100)単結晶においては測定方向を変えることで新たにΓ-Z方向の分散が得られた。また酸素の光脱離によって価電子帯と伝導体のギャップ中に作られる表面電子状態が分散を持つことがレーザー二光子光電子分光により明らかになった。 昨年度までに、TiO2(100)単結晶に対する三次元角度分解光電子分光により、表面に垂直なΓ-X方向のバンド分散と、Γ点、X点が測定可能な光子エネルギーを選ぶことで面内のΓ-X方向、X-M方向の分散が明らかになっていたが、これらの三次元データを解析することで得られたΓ-M方向の分散と新たに実験的に得られたTiO2(110)単結晶におけるΓ-M方向のバンド分散とが良く一致することがわかった。また価電子帯の上端はΓ-Mラインの途中にあるとする理論の予測とは異なりM点にあることが明らかになった。 また金属-絶縁体転移を示す物質として古くから知られるチタン酸化物の一種であるマグネリ相Ti4O7においてもアナターゼ型TiO2の表面清浄化の技術を応用することで角度分解光電子分光測定が世界で初めて可能となった。長らく不明であったTi4O7の金属-絶縁体転移のメカニズムが解明できると期待される。 これらの成果について2019年春の日本物理学会などで報告を行うとともに、論文投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度研究実施計画ではアナターゼ型TiO2単結晶試料について、前年度に引き続き三次元角度分解光電子分光測定によりバルク電子状態と表面電子状態のバンド分散に関する知見を得るとしている。 研究実績の概要でも述べた様にTiO2(100), (110)単結晶の三次元角度分解光電子分光測定からΓ-X方向、X-M方向、Γ-M方向、Γ-Z方向のバンド分散が明らかとなった。特に価電子帯上端を含むΓ-M方向の分散に関する知見が得られたことからバルク電子状態のバンド分散は概ね理解できたと考えられる。またTiO2(100)単結晶表面において酸素の光脱離によって形成されるTi3d状態を起源とした新たな表面電子状態についてレーザー二光子光電子分光によりバンド分散が観測された。 以上のことから研究内容については実施計画通りほぼ100%達成できており、また当初計画に含まれていないチタン酸化物のマグネリ相Ti4O7についても世界で初めて角度分解光電子分光が可能になるなど非常に重要な成果が得られている。これらの成果について日本物理学会などで発表を行っており、論文化が遅れていることを除けば本研究課題は実施計画通りおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きアナターゼ型TiO2天然単結晶試料のそれぞれの面方位における表面電子状態について放射光を用いた三次元角度分解光電子分光ならびにレーザーを用いた角度分解二光子光電子分光測定を行う。光電子の運動エネルギーと励起光として使用するレーザーの光子エネルギーとの関係から、バルク電子状態と表面電子状態さらには占有電子状態と非占有電子状態を分離し、特に表面電子状態の占有、非占有状態についての知見を得る。前年度までに放射光を用いた三次元角度分解光電子分光によってバルクの占有電子状態のバンド分散に関する情報が得られているので、この結果と比較することでより正確に表面電子状態を分離できる。 これらの研究結果からアナターゼ型TiO2単結晶の光触媒活性に関係すると考えられる表面電子状態を明らかにし、引き続き国内の学会や国際会議での発表や学術論文への投稿、本研究センターで二年ごとに刊行しているActivity Reportなどにより公表すると共にセンターWebページなどで情報公開を行う。
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