研究課題/領域番号 |
16K05408
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
欅田 英之 上智大学, 理工学部, 准教授 (50296886)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ポンププローブ分光 / コヒーレントフォノン |
研究実績の概要 |
本研究では透過型ポンププローブ分光法によるコヒーレントフォノンの精密測定を行い、二光子励起キャリアとコヒーレントフォノンの相互作用から易動度を見積もるといった、新たな電子物性測定技術の開拓を試みる。 28年度は本研究の効率化に向けて、透過型ポンププローブ信号測定系の改良と、試料作製の最適化を行った。まず、信号測定系について、これまでの問題点として、ポンプ・プローブパルス間の遅延を変えるステージの移動に伴い、ビームのポインティングが変化するという状況があった。十分に高い励起強度を得るためには試料上でのビームスポットを小さくする必要があり、ポンプ・プローブ両パルス間の試料上における重なりが遅延時間に依存してしまう。これが結果的に測定のS/Nの低下に大きく寄与していた。そのため光学系の改良とミラーあおりの制御系の導入によって、ポインティングスタビリティの向上を行った。この改良の実証のため、モデル物質として二酸化チタンを用いてポンププローブ測定を行い、光励起キャリアダイナミクスが結晶構造に大きく依存することを初めて観測するに至っている。 また、本研究に不可欠である量子ドット薄膜試料については、量子ドット薄膜試料は光学特性にばらつきが多く、このうち良質なものを選んで本研究に用いるつもりであった。しかしながら測定に耐える試料の数が限られており、時間とともに試料が劣化することから、試料の作製法を確立することはこれまでの課題であった。そこで、28年度はコロイド濃度、印加電圧等の条件出しを精密に行い、試料作製に最適なパラメーターを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は赤外極短パルス光源の作製を予定していたが、冷却用チラーのトラブル等で再生増幅器の出力強度が十分ではない状態が長く続いた。そのため光源の設計に対する検討は行いつつも実際の作製は次年度以降に回し、28年度は本研究のスピードアップにつなげるべく、透過型ポンププローブ信号測定系の改良と、試料作製の最適化に時間をかけた。 透過型ポンププローブ信号測定系については「研究実績の概要」で述べたように、光学系の改良により、ポンプ・プローブパルスの伝搬方向の安定化を行い、これまでより高いS/N比での観測が行えるようになった。なお、この光学系の評価に二酸化チタンのポンププローブ信号を用い、これまでにない精密な光励起キャリアダイナミックスの観測に成功している。 試料作製については、「研究実績の概要」で述べたように、試料作製の再現性が課題であったが、試料作製のパラメーターの再検討を行うことにより、安定な試料供給が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
29年三月末の時点でチラー修理と再生増幅器の再調整は完了し、十分な出力強度が得られるようになった。そこでまず、昨年度に予定していた赤外極短パルス光源の製作に取り掛かる。 非線形光学結晶の選択など方針はほぼ固まっているため、これを速やかに完成させ、29年度にもともと予定していた、易動度が分かっている半導体でのコヒーレントフォノンの検出を行う。そのための赤外ポンププローブ光学系を作製し、コヒーレントLO フォノン信号のポンプパルス強度依存性を測定する。 振動数と減衰レートがどのように変化するかを精密に観測することで、キャリアの直流特性とLO フォノン振動数での特性との違い、および化学的ドープキャリアと二光子生成キャリアの振る舞いの違いを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」で述べた事情により、当初予定していた赤外超短パルス光源の製作を28年度に行わなかった。そのため光源作製に必要な費用を以下に示すように29年に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
29年に赤外超短パルス光源を作製する。さらに当初から29年に予定していた実験もこの光源を用いて行うため、次年度使用額と29年度請求分を29年度中に使用する予定である。
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