研究課題/領域番号 |
16K05412
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中西 毅 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 数理先端材料モデリング オープンイノベーションラボラトリ, ラボ長 (00301771)
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研究分担者 |
宮本 良之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 研究チーム長 (70500784)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / カーボンナノチューブ / 有効質量理論 / 時間依存密度汎関数法 / シリセン / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
この研究では原子層物質間の層間相互作用を第一原理計算を専門とする分担者と協力しながら有効質量近似により取り扱い、単層、複数層の電子状態と電気伝導特性、ヘテロ接合における面間、面内の電気伝導など、原子層の電気伝導理論の構築を目的としている。そのうち、今年度は端が閉じた2層グラフェンあるいは扁平したカーボンナノチューブに着目し、その電子状態の層間相互作用依存性を明らかにした。2層グラフェンを有効質量理論で取り扱い、2層の重なり方に依存する有効的な層間相互作用を導出した。閉じた端を有効的な境界条件により接続した1層グラフェンとして取り扱った。 また、時間依存密度汎関数法による第一原理計算では2次元原子層材料に光電場を照射したときの応答特性を調べた。特定の周波数の光電場に対してその電場の増幅とテラヘルツ変調効果があることをシミュレーションから見出し、テラヘルツ光源デバイスの一部に2次元原子層材料を用いることを提案した。 連携研究者(産業技術総合研究所 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター 森下徹也主任研究員)はナノワイヤやナノシートなどの低次元シリコン物質とその形成プロセスに注目し第一原理及び古典分子動力学シミュレーションをナノスケールの様々な形態のシリコン構造体に対して実施し、ナノスケールシリコンの構造変化やそれに付随する電子物性変化を明らかにしている。特に、CaSiF結晶内で形成される2層シリセンの構造安定性を、シリセン表面のダングリングボンドに注目して第一原理計算により検証した。具体的にはCaSiF層内のスリット空間内に形成された2層シリセン構造がフッ素化合物の濃度にどのような影響を受けるか調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
端が閉じた2層グラフェンあるいは扁平したカーボンナノチューブについては、層間相互作用が重要となるアカイラルな構造の場合について詳しく調べた。すなわち、アームチェア型、ジグザグ型ナノチューブが扁平したとき、層間相互作用は2層のずれによって大きく変化する。それに従い2層グラフェンの電子状態は大きく変化する。これらの状態の上下層の波動関数は導出した境界条件によく整合し、閉じた境界の影響をほとんど受けないことを明らかにした。その結果、半導体から金属へまた半導体へ変化する電子状態は、対応する2層グラフェンのエネルギー分散関係を離散化したものとして概ね理解された。 2次元原子層材料の光応答特性については、2次元原子層材料の光吸収と共鳴する周波数の光電場特性に着目し、電場の増幅とテラヘルツ変調効果があることをシミュレーションから見出した。さらに実験的実用性を考え固定された周波数(波長に換算して800nm)を持つ光電場にたいしても増強効果がみられるか検証し、2次元原子層材料では元の電場の60%以上の増幅効果があることを見出し、2次元原子層材料を筒状にしたナノチューブ構造では2倍以上の増幅効果があることを見出した。 シリセンについては、第一原理分子動力学計算から、フッ素の量が少ないとハニカム格子の層から成る2層シリセンが安定に存在する一方、フッ素含有量が増加すると、4角形と5角形を保持する波型の2層シリセン構造が形成されることを示した。これは、シリセン層の表面に存在するダングリングボンドの影響による。即ち、フッ素含有量が少ない状況では、Caからの電子によりダングリングボンドが占有され、2層シリセン構造が安定になる。一方フッ素含有量が増加すると、ダングリングボンドは電子数が足りない状態になり構造が不安定になる。それにより、2層シリセンはダングリングボンドの数が少ない構造へ転移する。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は産総研と東北大学が共同で設立した数理先端材料モデリング オープンイノベーションラボラトリに異動し、数学、理論物理による材料開発の加速を目指した研究を行っている。具体的には、複雑原子構造と電気伝導度など材料機能の相関の解明、トポロジカル絶縁体に関する研究などを推進している。 光増幅効果を利用したデバイスアプリケーションを第一原理計算より提案する。増強された光電場による、2次元原子層材料付近の分子における光化学反応の促進の可能性や、貴金属ナノ粒子にかわる光増幅デバイスの可能性を第一原理計算によるシミュレーションで検証する。 シリセンについては、シリセンとCaSiF層との界面上のフッ素含有量を制御することで、シリセンの構造を制御できることがわかったので、今後はフッ素化合物以外の物質でも構造制御が可能か検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は3月のアメリカ物理学会に出席し研究成果を発表し情報収集する予定であったが、今年度開設した新しいラボの立ち上げに関する予想外に多い業務のため、出席を直前で断念した。そのために使用予定だった予算が次年度に繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
連携研究者が興味深い成果を出し国際学会に招待されている。その海外渡航旅費として使用を予定している。
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