研究課題/領域番号 |
16K05414
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
栗田 伸之 東京工業大学, 理学院, 助教 (80566737)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 圧力誘起量子相転移 / 基底一重項磁性体 / 高圧力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は基底一重項磁性体における圧力誘起秩序相の秩序状態及び相転移点近傍での臨界現象を実験的に明らかにすることである。本年度は擬スピン 1を有する基底一重項磁性体CsFeCl3の圧力下中性子回折測定及び圧力下μSR測定を行い、臨界圧力Pc=0.9 GPa以上で基底状態が非磁性ギャップ相から磁気秩序相へと変化することを確認した。昨年度に報告を行なった高圧力下磁化測定の結果と良い一致を示しており、Pc以上での磁気的基底状態がミクロな視点からも証拠付けられたとことになる。特に圧力下中性回折測定の結果からは、その磁気構造が120°スピン構造であることが明らかになった。本研究成果についてPhysical Review BのRapid Communicationsでの掲載が決定した。圧力下μSR測定の結果については磁性体に関する国際会議ICM2018で発表予定である。更に、関連物質CsFeBr3における磁場誘起量子相転移の臨界特性に関する論文の執筆を行いPhysical Review Bに掲載された。本研究では希釈冷凍機温度(0.1 K)まで行った磁場中磁化・比熱測定の結果を元に磁場-温度相図を決定した。より低温領域まで相転移磁場の温度依存性を明らかにすることで、臨界指数1.50が得られた。この値は磁気励起子マグノンのBose-Einstein凝縮(BEC)で理論的に予想される臨界指数1.5と一致している。本研究結果は、量子臨界現象の普遍性を実験的に検証することに成功したという意義を有する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCsFeCl3の圧力下中性子回折測定及び圧力下μSR測定の結果から、Pc以上で基底状態が磁気秩序状態となること及びその磁気構造が120°構造となることが明らかになった。圧力誘起磁気秩序状態がミクロな視点からも証拠付けられた点で大きな進展と言える。3He温度領域におけるCsFeCl3の圧力下磁化測定に関しては当初の計画より遅れている一方、関連物質CsFeBr3の量子臨界性に関する研究や新規基底一重項磁性体Ba2MSi2O6Cl2(M=Co,Cu,Ni)の磁気励起に関する研究に進展が見られた。以上を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
未解決課題である3He温度領域におけるCsFeCl3の圧力下磁化測定を引き続き行う。得られた結果とこれまでに得られている1.8 K以上での磁化・中性子回折・μSR測定の結果と合わせ、総合的な解析・議論を行い論文執筆を行う。研究計画通りに進展しない場合に備え、Ba2MSi2O6Cl2(M=Co,Cu,Ni)の磁気励起に関する研究も平行して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
磁気特性測定装置MPMS専用の3He冷凍機iHelium3を用いた圧力下磁化測定システムの立ち上げに関して遅れが生じたため。次年度使用額は引き続き圧力下磁化測定システムの立ち上げに充当する。
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