研究課題/領域番号 |
16K05416
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 周波数掃引型ESR / スピンギャップ / エレクトロマグノン |
研究実績の概要 |
本研究は、スピンギャップ系物質KCuCl3などにおいてその存在が期待されているエレクトロマグノン励起を検証することを目的とする。手法としては周波数掃引型ESRを用いる。KCuCl3は、基底状態に一重項(S = 0)、第一励起状態に三重項(S = 1)を有し、ESRでは本来禁制遷移であるS = 0からS =1への直接遷移が観測されている。その起源として従来、Dzyaloshinsky-Moriya(DM)相互作用が考えられてきたが、近年、スピンカレント機構に基づく電気分極と入射電磁波の電場成分との結合によるエレクトロマグノン励起による可能性が指摘されている。周波数掃引型のESRでは、一般に行われる磁場掃引型のESRでは観測できないS = 0からS = 1のSz = 0への励起モード(平行モード)が観測可能であるが、このモードに対しエレクトロマグノン励起は特有の遷移確率を有する。このことを利用して系のエレクトロマグノン励起の存在の検証を行う。 周波数可変の光源としては後進行波管(BWO)を用いるが、BWOは出力が周波数に依存するため、昨年度は、試料の有無での透過光強度比が得られる様に、回転する試料ステージを備えたインサーションを作製した。ある程度の感度で周波数掃引によるESRスペクトルを得ることが出来るようになった。今年度はこれを用いKCuCl3の平行モードの観測を試みたが、目的の信号の観測には感度が不足していることが分かってきた。そこで新たにメンブレンを用いた微少な磁化変化を検出するESR装置により、周波数掃引のESR測定を試みた。その結果、KCuCl3の平行モード観測の可能性を見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、試料回転ステージを備えた周波数掃引型ESR装置を作製した。透過光強度は光変調方式によりロックイン検出し、磁場は最大磁場10 T までの超伝導磁石により印加する。光源はBWO を用いた。0.1~1 THzの周波数範囲が複数の発振管によりカバーされている。テスト測定にはSrCu2(BO3)2を用いた。本試料もS =1/2の反強磁性ダイマーを基本構造とするスピンギャップ系物質の一つであるが、既に他の測定により平行モードが観測されている。テストの結果、比較的良好な感度で同物質の平行モードを観測することが出来た。この結果を受け今年度は、実際にKCuCl3について測定を行った。しかし十分なS/N比で目的とする平行モードの観測を行うことは出来なかった。原因としては、試料ステージの回転により電磁波の反射や損失等にも違いが生じ、試料の有無だけが異なるという環境が出来ていない、ということが考えられる。この点について今後さらに原因を究明していく。一方で、メンブレンを用いた、試料の微少な磁化変化を検出するESR技術による周波数掃引型ESR測定も始めた。本ESR技術は、共鳴に伴って反転したスピンの緩和により放出されるエネルギーが、試料の温度上昇を通じて磁化を変化させることを利用するものである。メンブレンには、適当な磁場勾配中に置かれた試料の磁化変化により力が働き、その結果生ずるメンブレンの変位を測定することで共鳴が観測される。この測定の利点は、共鳴時にのみメンブレンが反応するため、光源の強度が周波数に多少依存しても、共鳴の有無の判別がより容易に行えるという点である。同手法を用いた周波数掃引型ESRで、KCuCl3の平行モードを観測することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は以下のように研究を進める。まずは信号を確認できたメンブレンを用いた周波数掃引型ESR技術を確立する。同測定では、S/N比はまだ十分に高いとは言えず、今後更に条件を詰めていく必要がある。特に本研究ではS = 0からS = 1のSz = 1、0、-1それぞれへの遷移に伴う共鳴の強度比を求める必要があるため、得られたESRスペクトルの規格化について検討を行う。ある程度条件が固まったら本格的に測定を行う。これと平行して、試料の有無からスペクトルを得る手法についても改良を進める。ステージ回転型についてはステージを金属製からプラスチック製に変更するなどして、試料ステージの回転が測定に与える影響を軽減する。また底面折り返し型のインサーションについても検討する。即ち、折り返し部分に外部から試料を出し入れできるような機構を持たせ、試料の有無に伴う光路内での電磁波の反射、損失等に可能な限り影響を及ぼさないインサーションを作製する。これらにより周波数掃引型ESR測定技術を確立し、エレクトロマグノンの検証を行う。実際の測定では、様々な配置でESR 測定を行い、観測されるS = 0からS = 1への直接遷移について、信号強度比、磁場依存性の有無をチェックする。磁場依存性が無ければエレクトロマグノン励起の存在の可能性が高い。系の構造的特徴を念頭に、エレクトロマグノン励起の選択則を計算し、その結果と実際の測定結果とを比較し、エレクトロマグノン励起であるかどうかをチェックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)配分額が申請金額(備品費45万円、消耗品費90万円、旅費45万円、計180万円)に比べ減額されていたため(配分額は130万円)、設備備品として計画していたワイヤーグリッド(45万円)の購入を取りやめ、その他の配分額をほぼ予定通り使用した。668円の次年度使用額が生じた。 (使用計画)平成30年度も申請額(130万円)に対し配分額は減額されているので(90万円)、予定していた旅費を減額するなどして研究を進める。
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