研究課題
本研究は、周波数掃引によるESR測定手法を確立し、スピンギャップ系物質として知られるKCuCl3において期待されるエレクトロマグノンの励起の有無を、本手法とその特有のESR選択則により検証するものである。周波数掃引型のESR装置の開発が本研究のキーとなる。光源としては準連続的に周波数変化が可能な後進行波管(BWO)を用いた。BWOは周波数によって出力強度が大きく変化するため、試料のない状態での参照スペクトルを得ることが必要になる。そこで試料の有無での透過電磁波強度の比からスペクトルを得ることが出来る、回転試料ステージを有するESRプローブを作製した。これにより、直接遷移のESR強度が比較的強いダイマー系物質SrCu2(BO3)2を用いて評価、改良を進め、ある程度のS/N比で周波数掃引によるESRスペクトルを得ることが出来るようになった。しかしKCuCl3の測定に対しては感度は十分ではないことが分かった。そこでメンブレンを用いたESR測定を試みた。同手法は、ESRの遷移に伴う微小な磁化の変化をメンブレンによって精度良く検出する高感度なESR測定手法である。この方法では、共鳴は電磁波強度をON、OFF変調し、その変調周波数を参照信号にロックイン検出する。光源としては同じくBWOを用いるが、共鳴の無い場合は基本的には入射電磁波の強度にかかわらず信号は観測されないため、試料のない状態での参照スペクトルを必要とせず、精度良くかつ効率的に周波数掃引によるESR測定が可能になる。本手法をKCuCl3に適用し、種々条件を検討して、平行モードを観測することに成功した。観測されたスペクトルは、磁場依存性が小さいというエレクトロマグノン励起に特徴的な選択則を有しており、これにより、周波数掃引型ESR測定手法の確立と共に、エレクトロマグノン励起の存在を強く支持する結果を得ることが出来た。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Journal of Magnetism and Magnetic Materials
巻: 449 ページ: 94~104
doi.org/10.1016/j.jmmm.2017.09.027
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 87 ページ: 033701~033701
doi.org/10.7566/JPSJ.87.033701
The Journal of Physical Chemistry B
巻: 122 ページ: 6880~6887
DOI: 10.1021/acs.jpcb.8b03128
Journal of Molecular Liquids
巻: 269 ページ: 882~885
doi.org/10.1016/j.molliq.2018.08.119
Journal of Magnetic Resonance
巻: 296 ページ: 1~4
doi.org/10.1016/j.jmr.2018.08.005