研究課題/領域番号 |
16K05418
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中野 博生 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (00343418)
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研究分担者 |
轟木 義一 千葉工業大学, 創造工学部, 准教授 (40409925)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フラストレート磁性体 / ハイゼンベルク反強磁性体 / 数値対角化 / 大規模並列計算 / 磁性 / 物性理論 / 量子スピン系 / 計算物理 |
研究実績の概要 |
磁性体では系が有する性質に起因して特徴的な振舞が様々な形で現れる。特に、フラストレーションを有する量子スピン系では、そのフラストレーションによって量子揺らぎが増大し、それが原因となって、非自明な振舞がしばしば現れる。本研究では、量子系の理論模型に対し、偏りのない直接数値シミュレーション方法である数値対角化法を用いて、そのような非自明な振舞とその発現機構の解明を目的としている。2019年度は、歪んだカゴメ格子系を構成している一連のチタン化合物の挙動の解明を進めた。この物質の磁性に対する実験に対し、密度汎関数法の計算から導いたハイゼンベルクハミルトニアンを代表者の数値対角化プログラムで取り扱い、磁化過程の挙動を解明した。実験で測定された範囲の磁場領域で良い合致を示した上で、実験で観測されていない高磁場領域で挙動が明らかとなった。カゴメ系の研究成果以外にも、大規模並列シミュレーションという視点で、京コンピュータの大規模占有利用を実現し、整数スピン1次元ハイゼンベルク鎖のハルデンギャップの精密評価を行った。京の占有計算で初めて実現したのは、S=5の場合の14サイトの有限系のエネルギーギャップで、京が保有する計算ノードの約97%を用いることで初めて実現した。これにより、S=5系に対して唯一これまで得られていた代表者自身の研究成果の見積もりよりも高精度の結果を得ることに成功した。併せてS=6の場合の評価にも成功し、ハルデンギャップの漸近形に関する考察を行った。2019年度に得られた成果は、典型的な量子スピン系の基礎的知見として、今後のこの系の研究に寄与することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理想的なカゴメ格子から一定の歪みを含むような系の挙動解明は、現実の物質を理解する上で欠かせない。物質の中には、理論的に取り扱う上で考慮されていない要素が重要となることがあり、様々な角度から検討を加えることが重要で、歪みの効果の解明はその一端である。そういった意味で、実験的に測定されたチタン化合物の磁性と本課題で実施した理論計算の比較は、重要な成果と言える。これらの成果は、物質の磁性のを深く理解していく上で基本的な知見となっていくと考えられる。この成果は、国際的に定評のあるJ. Phys. Soc. Jpn.誌及びPhys.Rev.B誌で掲載され、プロジェクト推進が概ね順調に進展していると判断した理由となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに、カゴメ格子系・三角格子系・直交ダイマー系など、様々なフラストレート磁性体の諸性質解明を実施してきた。新たな格子系の様々な非自明現象の解明を進めるとともに、これらの系を俯瞰的に調べ、広い視点からフラストレーション系全般の振舞の統合的理解を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた一番大きな原因は、2019年度に得られた研究成果のうち、投稿が完了していないものが生じたためである。これを2020年度に投稿し、2020年度の出来るだけ早いうちに出版を完了させる。また、この論文のオープンアクセス化も実施する。
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